[P100-2] 集中治療に関連した心的外傷後ストレス障害を有する患者の周術期
【背景】集中治療室(intensive care unit: ICU)退室後のPTSD(posttraumatic stress disorder: PTSD)は頻度が高く(ICU退室1~6ヶ月後で24%)、集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)における精神障害の一つとして注目されているが、こうした患者への周術期の対応に関する報告は少ない。PICS/PTSD患者の手術では、トラウマ記憶を賦活させることにより周術期にパニック発作を起こす可能性があり、想起刺激に配慮した周術期管理が求められる。【症例】47歳女性(身長156cm、体重56kg)、人工股関節置換術が予定された。患者はシュノーケリング中の接触事故で海外のICUに入院歴を有し、PICS/PTSDの診断で精神科の介入を要していた。セルトラリンの定時内服とロラゼパム頓用で病状は安定していたが、受傷5カ月後に施行された全身麻酔下大腿部瘢痕拘縮術の際にパニック発作を起こしていた。手術に対する不安が強かったため、ブロチゾラム0.25mgを前投薬として内服したが、手術室入室時は不安が強く、涕泣していた。患者が受け入れ可能であったモニタ画面の起動(消音状態)、心電図電極・酸素飽和度プローブ・血圧計の装着および静脈路確保を慎重に行った。フェイスマスク装着に抵抗があったため、気道確保困難のないことを確認し、前酸素投与なしの急速導入を選択した。酸素飽和度が低下することなく気管挿管を行いプロポフォールTCI・レミフェンタニル・フェンタニルで維持を行い手術は終了した。手術終了前より健忘作用を目的としてミダゾラム(総量3mg)を併用し、深麻酔下(BIS値52、自発呼吸なし)で抜管した。抜管後にマスク換気を行いながらスガマデックス200mgを投与した。自発呼吸が回復してきたところでフェイスマスクを外し、フルマゼニル0.05mgを追加投与し十分な自発呼吸の回復と覚醒を待った。患者はパニック発作を起こすことなく退室した。【結論】本症例では、入室時は啼泣しており不安要素を取り除くことはできなかった一方で、モニタやフェイスマスクなどの刺激要素に配慮し、高い患者満足度を得ることができた。不安軽減・健忘効果を目的としたベンゾジアゼピンの術中使用報告は多く、周術期のPICS/PTSD患者への使用も有用であった。PICS/PTSD患者への対応および周術期管理は画一的なものではなく、トラウマ体験が患者毎に異なるのと同様に個別の対応策が必要となるため、情報の蓄積が重要である。