[P12-3] 同一姿勢による冷水被曝が原因と考えられた横紋筋融解症の1症例
(緒言)横紋筋融解症は種々の要因で生じるが、筋固縮により同一姿勢を保持し冷水に被曝することで横紋筋融解症を合併したと考えられた症例を経験した。(症例)80歳、男性。既往に気分障害、不眠症、甲状腺機能低下症があり、スルピリド、パロキセチン、レボチロキサシンを服用していた。4月上旬に右下肢が川に浸かったまま動けなくなっているのを家族が見つけ救出した。来院時の腋窩温は36.4℃で、その他のバイタルサインにも問題はなかった。右大腿部の知覚は低下していたが運動機能は正常で、目立った出血や外傷痕はなかった。認知症を認め詳しい受傷機転は不明であった。血液検査はWBC25100/μL、Cr1.98mg/dl、CK10067U/Lで、横紋筋融解症と診断し、輸液負荷に加え破傷風予防と抗菌剤を投与した。来院後より徐々に右大腿~下腿の腫脹が進行し、7時間後には大腿~下腿後面に水疱形成を認めた。9時間後にはWBC17900/μL 、Cr2.52mg/dl、CK65692U/L、動脈血液ガスでBE-5.0mmol/lとなり、さらに筋区画症候群も合併し血液透析に加えダントロレンを投与した。CT検査では右内転筋、大腿二頭筋、ヒラメ筋の腫大を認めたが血行障害はなかった。また臨床的にも右下肢の知覚異常はあったが、疼痛や運動障害、アシドーシスの進行、右大腿径の増大傾向、感染を伴う壊死の徴候を認めず減張切開はしなかった。経過中のCK値の最大値は96220 U/Lであった。ダントロレンの投与はCK値が10000 U/L以下を指標として5日間投与し、血液透析は入院15日目に離脱した。その後の経過には問題はなかった。(考察)1冷水への暴露時間は認知症のため不明だが、除外診断と経過中の水疱形成などから冷水被曝を横紋筋融解症の原因と考察した。2.冷水被曝により右大腿~下腿での血行障害により筋崩壊が生じ、さらに浮腫による筋区画症候群も合併し横紋筋融解症が進展したと考えられた。3.重篤な外傷痕や骨折はなく、スルピリドによる錐体外路症状での筋固縮により同一姿勢を余儀なくされた可能性があった。4.筋区画症候群を合併したが、減張切開考慮の判断として臨床症状、画像診断、血液検査を参考にした。5.ダントロレン投与は筋緊張による更なる筋区画内圧の上昇の軽減に寄与したと考察された。6. CK値の最大値は96220 U/Lで、経過から考え数値が高い印象はあるが原因は不明であった。(結語)同一姿勢の保持に加え低温暴露などの誘因が加われば横紋筋融解の要因となり得る。