[P15-6] βラクタム系抗菌薬による交差反応が原因と考えられた薬剤性肺障害の一例
【はじめに】βラクタム系抗菌薬はβラクタム環を有し、いずれの薬剤も交差反応を生じる可能性がある。ペニシリン系抗菌薬に関する交差反応についての報告は数多くあるが、カルバペネム系とセファロスポリン系抗菌薬に関する報告は少ない。今回、我々はメロペネムとセフェピムによる交差反応が原因と考えられた薬剤性肺障害の一例を経験したので報告する。【症例】63歳、男性。前医において腹膜透析関連腹膜炎で入院し、セフタジジム、バンコマイシンの腹腔内投与で加療を行ったが、改善に乏しく、セフタジジムをメロペネムに変更した。抗菌薬変更後、血小板減少と消化管出血を合併したため当院へ紹介となった。来院時、薬剤性の血小板減少を疑い、抗菌薬をセフェピム 1g/dayの静脈内投与に変更したところ、静注後に全身の掻痒感と、膨隆疹が出現した。セフェピムによるアレルギー反応が考えられたので、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 5 mg とハイドロコルチゾン300 mgを投与し、症状は速やかに改善した。第3病日に胸部X線写真で両肺にびまん性の陰影が出現し、呼吸状態が悪化したため人工呼吸管理を開始した。同日に骨髄穿刺を行ったところ、血球貪食症候群は否定的だった。第4病日に肺障害の原因精査として気管支肺胞洗浄を行なったが、洗浄液に有意な菌体は確認できず、薬剤性肺障害が疑われた。被疑薬の中止で経過を見ていたが、呼吸障害が遷延していたため、プレドニゾロン70mg/dayを開始した。ステロイド開始後に呼吸状態と血小板低下も改善し、第13病日に抜管した。プレドニゾロンの減量に伴い、血小板減少と呼吸状態の悪化がないことを確認し、第17病日に一般病棟に退室した。第21病日に薬剤刺激性リンパ球刺激試験の結果でメロペネムが陽性と判明し、臨床経過からはβラクタム系抗菌薬の交差反応が肺障害の原因と考えられた。【考察】カルバペネム系とセファロスポリン系抗菌薬の交差反応のリスクはデータが限られており、一定の見解は得られていない。薬剤性アレルギーは複数のアレルギー型が関わり、症状も多彩で診断に苦慮することが多い。重篤な症状を呈する場合は、再投与での確定診断は難しく、患者の安全にも配慮を要する。本症例では薬剤以外の原因を迅速に検索し、否定することで適切な対応を選択できたことが、早期の回復に繋がったと考えられた。今後、症例を重ね交差反応のリスクについて解析されることが期待される。