[P16-2] 弁周囲逆流の診断に集中治療室入室後の経食道心エコーが有用であった1症例
【背景】大動脈弁狭窄症(AS)に対し大動脈弁置換術を施行され集中治療室(ICU)に入室となったが、低血圧及び酸素化不良が持続し、入室後に経食道心エコー(TEE)を行ったところ、人工心肺離脱時には確認されなかった人工弁周囲逆流を認め、再手術を行いその後は経過良好となった。ICUでの経食道心エコー所見が再手術の決定に有用であった症例を経験したので報告する。【臨床経過】87歳 男性。急性心不全で入院した際に、ASを指摘された。経胸壁心エコーでは大動脈弁口面積(AVA)0.7cm2、最大圧較差(P-PG)81mHg、平均圧較差(m-PG)45.4mmHg、EF 54%と重症であった。高齢だが本人家族の強い希望あり手術の方針となった。術中所見では、大動脈弁の3尖いずれも高度石灰化を認めた。また、無冠尖(NCC)部分では弁下で僧帽弁側へ伸びる塊状の石灰化がみられ、STジャンクションにも石灰化を認め、糸の結紮は高難度であった。弁置換後に術者の視認範囲で異常はみられなかった。人工心肺からの離脱に際し、肺動脈圧の上昇と拡張期圧の低下を認めたため、TEE検査も施行していたが弁周囲異常は指摘できず、人工心肺離脱し手術終了となった。ICU入室時の観血的動脈圧(ABP)は80mmHg台であったがその後、収縮期ABP50mmHg台、拡張期圧ABP20mmHg台まで低下。ドレーン量増加なく、ノルアドレナリン増量するも血圧上昇認めなかった。再度ICUにてTEE施行したところ、人工心肺離脱時には指摘されなかった大動脈弁周囲逆流を認めた。また、心嚢液貯留は認めず、心室中隔の動きはやや不良であるが他の部分は良好であった。血圧上昇認められず、拡張期圧低下も持続しており、弁周囲逆流による心不全と判断され再手術の方針となった。再手術ではNCC弁下の石灰化部位で弁座がフィッティングしていなかったことが確認された。人工弁を外し、石灰化部分を可能な限り除去した後に再度人工弁を逢着し、確実に弁がフィッティングしていることを確認し、手術を終了した。再手術後の循環動態は安定し、術後2日目に抜管となりその後の回復は順調であった。【結論】人工心肺離脱時の術中TEE検査のみならず、ICU入室後循環動態に異常がある時には、ICU内でもTEE検査を行うことは診断漏れを防ぐ重要な手段であることを改めて痛感した。