[P18-3] 一時的下大静脈フィルターを抜去した当日に肺血栓塞栓症を起こした一例
【背景】下大静脈フィルター(IVCフィルター)留置は、下肢に発生した深部静脈血栓が肺動脈へ流入することによる肺血栓塞栓症を予防する目的で行われる。致死的な肺血栓塞栓症を防ぐ上で有用な処置だが、フィルターでの血栓形成、静脈閉塞や静脈壁穿孔など副作用が多く、診療上で大きな問題となる。今回、下大静脈穿孔による血腫の増大からIVCフィルターを抜去した直後に肺血栓塞栓症を起こし心停止に至った症例を経験した。【臨床経過】65歳、男性。152cm、66kg。小児麻痺の既往があるがADLは自立している。動悸、胸痛を主訴に当院を受診し、造影CTで両側中枢型の肺塞栓及び左下腿深部静脈血栓症と診断。入院した上で一時的IVCフィルターを留置し、抗凝固薬(リバーロキサバン30mg/day)の内服を開始した。2週間後にIVCフィルターを抜去する予定だったが、造影CTでIVCフィルターの背側に後腹膜血腫を認め、血腫の消退後にIVCフィルターを抜去する方針として発症23日目に一旦退院した。 31日目、尿閉と腹部膨満感を主訴に受診し、後腹膜血腫の増大とIVCフィルターの腸腰筋内への穿通を認めたため入院し、早期にIVCフィルターを抜去する方針とした。32日目、IVCフィルター抜去術を施行し、同時にIVCフィルターの再留置を試みたが挿入困難で断念した。術後1時間が経過した頃、病棟で歩行時に意識消失、心停止した。直ちに心肺蘇生が施され、経皮的心肺補助装置、大動脈バルーンパンピング留置後に集中治療室に入室した。血管造影で肺動脈右中下葉枝の塞栓を認めた。 蘇生後低体温療法を行うなど治療を施したが、低酸素脳症で意識の回復は見られず、48日目に気管切開を行った。51日目に永久IVCフィルターを留置した。【結論】本症例は、初回のIVCフィルター留置による下大静脈穿孔と後腹膜血腫のためIVCフィルターの管理に苦慮し、結果として望まれない転帰となった症例である。IVCフィルターは適切に使用されれば肺血栓塞栓症による突然死を防ぎ得るが、合併症発生時には慎重な対応が求められる。