[P18-2] 全身麻酔導入後にアナフィラキシーショックを呈した肺動脈性肺高血圧症の一例
重症肺高血圧合併患者に対し全身麻酔導入後、アナフィラキシーのため手術中止とした症例を報告する。34歳、女性。身長159.5cm、体重41kg。腸回転異常により反復するイレウスに対し保存的治療を行っていたが、本人と家族が外科的加療を希望し、麻酔科診察依頼があった。特発性肺動脈性肺高血圧症の合併があり、当院循環器内科でマシテンタン、リオシグアト、トラセミド、ワーファリンの内服治療と在宅酸素療法が導入されていた。心エコー検査では推定肺動脈収縮期圧が138mmHgと体血圧を上回っており、より厳密な肺動脈圧のコントロール後に手術を行う方針とした。 エポプロステノール持続投与を開始し、約2カ月かけて35ng/kg/minまで漸増した。肺動脈カテーテルによる肺動脈圧は114/65mmHgと依然高値だったが、これまでの経過で最良の状態と考え開腹Ladd手術の施行を決定した。エポプロステノールを継続し手術室へ入室した。フェンタニル100μg、ミダゾラム3mg、ロクロニウム40mg、セボフルラン2%を投与し、4%キシロカインを声門部に噴霧し、挿管した。続いて経食道心エコーの挿入、0.375%レボブピバカイン20mlで腹直筋鞘ブロックを行ったが、循環動態は安定していた。手術開始前に大腿動静脈にPCPSスタンバイのためシース挿入を行った。量規定換気を行っていたが、麻酔導入約30分後より気道内圧が徐々に上昇し、ピーク圧40mmHgに達した。その間、十分な換気量が得られずSpO2が 70%台へ低下し、体血圧70mmHg台、肺動脈圧140mmHg台となった。顔面、体幹の発赤が出現し、アナフィラキシーを疑いアドレナリン持続投与を開始した。その後気道内圧は低下し体血圧90mmHgまで改善したが、肺動脈圧は30分経過後も140mmHg台のままで改善が見込めず手術中止とした。 手術室で採取した血液検体中のヒスタミンは4.43ng/ml、トリプターゼは7.6μg/lと上昇がみられ、アナフィラキシーとして矛盾しない結果であった。被疑薬として麻酔導入に用いた薬剤が考えられた。 肺高血圧症の管理は、適切な前負荷と後負荷の維持、肺血管抵抗上昇の回避が重要である。本症例では、アナフィラキシーによる気管支攣縮により生じた低酸素血症と高二酸化炭素血症が肺血管抵抗を増加させ、さらに体血管拡張による後負荷減少が病態を悪化させた。早期にアナフィラキシーを診断し治療を行ったことで循環破綻を回避したが、手術は断念せざるを得なかった。