第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

消化管・肝・腎

[P19] 一般演題・ポスター19
消化管・肝・腎01

Fri. Mar 1, 2019 11:00 AM - 11:50 AM ポスター会場19 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:木村 友則(東京女子医科大学八千代医療センター救急科・集中治療部)

[P19-4] 肝臓区域切除術後に多臓器不全をきたし死亡した術前に診断されていなかった鎌状赤血球症の一例

井上 哲, 川口 洋佑, 税田 紘輔, 劉 丹, 塩路 直弘, 松三 絢弥, 佐藤 哲文 (国立がん研究センター中央病院 麻酔・集中治療科)

【背景】鎌状赤血球症は日本では非常に希な疾患で、ホモ接合型とヘテロ接合型がある。ホモ接合型は常時発症しているため成人前に死亡することが多いが、ヘテロ接合型は低酸素血症を契機に赤血球の鎌状化をきたし、多臓器障害を起こす(sickle cell crisis: SCC)ことがある。今回、術前に鎌状赤血球症と診断されていなかったが肝臓手術後にSCCにて死亡した一例を経験したので報告する。【臨床経過】53歳のアフリカ系成人男性で、C型肝硬変に合併した肝細胞癌に対して完全静脈麻酔による全身麻酔と硬膜外麻酔にて肝内側区域切除を施行し、抜管ののち集中治療室に入室した。術中肝門部血流一時遮断は6回(計154分)で、手術時間6時間15分、出血量714mlであった。術後1日目(POD1)には腹部超音波で肝血流などの異常は認めないものの、肝逸脱酵素の異常高値及び凝固延長を認めた。明らかな循環虚脱等認めないにも関わらず、POD2から多臓器不全症状が顕在化し、POD3から人工呼吸管理となり、POD4から腎代替療法を開始した。POD10より肝不全に対する血漿交換を施行した。POD16の頭部CT検査にて不可逆性の低酸素脳症と診断され、POD20多臓器不全のため、死亡した。なお、全経過を通じて超音波検査、CT検査で肝臓の動脈、静脈及び門脈に明らかな血流異常は認めなかった。当初、多臓器不全の原因は不明であったが、POD7に肝切除病理標本の血管内に鎌状赤血球の充満像を認めたためSCCを疑った。しかし、末梢血中に鎌形赤血球は認めなかったためその時点では診断確定できず、死亡後に病理解剖について説明したが同意が得られなかった。最終的には患者死亡後に電気泳動検査による異常ヘモグロビンの存在で鎌状赤血球症であることを確認した。【結論】本症例ではSCCを疑わせる既往がなかったため術前診断は行えなかったが、今後マラリア流行地域の患者を治療する際には鎌形赤血球症合併の可能性について考慮する必要性を再認識した。