[P20-1] 生体腎移植術直後に急性冠症候群を合併した1例
生体腎移植術直後に急性冠症候群を合併し、治療法の選択に苦慮した症例を経験した。【症例】 51歳の男性。慢性腎不全に対して腎移植術を予定した。2年前に他院で冠動脈バイパス手術が施行されていた。透析導入を検討したが、配偶者からの生体腎移植を選択した。 麻酔はデスフルランとレミフェンタニルの持続投与で維持した。ニコランジル(NLD)を4mg/Hの速度で持続投与した。麻酔導入5時間後、モニター心電図上でST部分の低下に気付いた(Fig. 1)。ニトログリセリン(NTG)の持続投与を開始し、麻酔終了時まで0.15γの速度で注入した。心電図所見は改善し、麻酔時間7時間4分で移植術を終了し、ICUへ入室した。 術後第1病日に胸部不快感を訴え、発汗、頻呼吸を認めた。ST部分の低下がより著しく(Fig. 2)、急性冠症候群が疑われた。尿量は毎時150mL程度保たれていたが、血性クレアチニン(Crea)値は移植6時間後に4.6mg/dLで、後第1病日でも3.5mg/dLと高値であった。クレアチニンキナーゼは574IU/Lと軽度上昇していた。NLDを6mg/hrの速度で投与しながら、NTGは0.6γまで投与量を増した。超音波エコー検査でびまん性に心筋壁運動の軽度低下を確認した。緊急カテーテル検査の適応に関して検討したが、移植腎の保護を優先する方針とした。 深夜には症状は消失し、術後第3病日より徐々に冠拡張薬の投与量を減じた。その後、内服加療に移行した。術後第5病日には血清Crea濃度は1.0mg/dLと正常化し、術後第6病日に一般病棟へ移動し、入院期間が延長したが移植腎は生着し、独歩退院した。