[P23-1] 僧房弁形成術後に脳脂肪塞栓をきたした1例
【諸言】脂肪塞栓症候群(Fat embolism syndrome : FES)は骨髄や脂肪組織の脂肪滴が体循環に流れ込み、さまざまな症状を引き起こす病態であるが,心臓手術術後に発症した報告はほとんどない。今回、我々は僧房弁形成術後に脳脂肪塞栓(Cerebral fat embolism :CFE)をきたした1例を経験したので報告する。【症例】既往歴に高血圧と脂質異常症が指摘されていた57歳男性。手術2カ月前に重症僧房弁閉鎖不全症による心不全のために入院した。心不全の内科的治療後、僧房弁形成術及びMaze手術施行した。ICU入室後12時間経過した時点でも意識レベルがGCS:E1VTM1であったため頭部CT及び脳波を施行したが、意識障害の原因となる所見は認められなかった。その後も意識障害が遷延したため術後8日目にMRIを施行したところ、拡散強調画像で大脳皮質下に多数の高信号域が認められた。CFEを疑う画像所見であったため眼底検査を行ったところ、両側眼底にFESに特徴的な網膜所見(プルチェル網膜症)が確認され、FESの診断基準(鶴田基準)を満たしFESによるCFEと診断した。患者の意識状態は経時的に改善し、術後11日目にはE3V4M5、術後25日目にはE4V4M6、術後39日目にはE4V5M6まで改善し、術後45日目にリハビリテーション病院に転院となった。【考察・結語】脂肪塞栓は血栓と異なり流動性、可変性に富むため、数日で症状が改善するとされている。CFE患者の大部分は可逆的な経過を辿るので、神経学的予後は良好と報告されており、本症例でも経時的に意識状態の改善が認められた。心臓手術術後のCFEは非常に稀であり、疑わなければ診断できない疾患であるが、通常の脳梗塞とは経過が異なることを留意すべきである。