[P23-5] 胸腹部大動脈術中に脳局所血酸素飽和度(rSO2)の変化を認め、術後脳梗塞を発症した2症例
【背景】人工心肺を用いる大血管手術での周術期脳障害の確率は4.7%~11.2%程度といわれており、非心臓手術の0.1%と比べても非常に高い。このような手術では多くは手術開始前から無侵襲混合血酸素飽和度監視システム (INVOS)を用いて脳局所酸素飽和度(rSo2)が測定される。今回、脳障害を発症し術中のrSo2に変化があった2症例を経験した。【症例1】67歳男性、身長171cm、体重59.6kg。既往歴は高血圧、脂質異常症、術前心機能は特に異常はなかった。8年前に大動脈解離の診断で、緊急で上行置換術が施行され合併症なく退院した。今回、全弓部から下行大動脈にかけての動脈瘤に対して二期的な手術が予定された。一期目の弓部全置換術は合併症なく退院した。退院1ヵ月後に二期目の胸腹部大動脈瘤の手術がおこなわれた。人工心肺開始と同時に左側のみrSo2の20%以上の低下があった。手術終了後、ICU入室3時間後より鎮静剤を中止したが、覚醒遅延を認め、左顔面痙攣、右上下肢の痙攣をみとめた。術後12間後に頭部CT施行したところ、左側に広範囲脳梗塞をみとめた。術後1日目で外減圧術施行したがその後脳ヘルニアとなり、術後5日目に永眠した。【症例2】63歳女性、身長157cm、体重62.7kg。2年前に大動脈解離の診断で緊急で上行置換が施行された、それ以後の経過も症例1と同様であった。既往歴は腰部脊柱管狭窄症、喘息、喫煙歴あり。術前の心機能に異常はなかった。手術直後よりrSo2の左右差をみとめたが、4時間程で左右差はなくなった。ICU入室1時間後に鎮静剤を中止した。その後、全身性の痙攣を認めたため、再度、鎮静を開始して人工呼吸管理した。術後1日目に再度、鎮静剤を中止したところ、再度、全身性の痙攣をみとめ、ICU入室12時間後に頭部CTを施行したが、CT画像に異常は認めなかった。術後2日目のMRIで左中大脳領域の脳梗塞と診断された。痙攣の薬物によるコントロールには難渋した。痙攣も認めなくなったため、術後9日目に抜管。抜管後、右上肢麻痺、発語障害に対してリハビリをおこなった。【結論】大血管術後にICUで脳梗塞が診断された2症例を経験した。ICU入室時に術後脳梗塞の発症を予測することは難しいが、術中rSo2モニターの経時的変化は術後脳梗塞の発症の可能性に重要な情報を与えると考えられた。