第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

産科・婦人科

[P33] 一般演題・ポスター33
産科・婦人科02

Fri. Mar 1, 2019 2:00 PM - 2:50 PM ポスター会場13 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:北浦 道夫(香川労災病院)

[P33-2] 妊娠による循環血漿量増加で顕在化した肺水腫に対し、多職種による集学的治療が功を奏した左房腫瘍の一例

桑原 香折1, 菅原 陽1, 安西 晃子1, 辻 匠子1, 横山 暢幸1, 濱田 貴子1, 柏木 静1, 横瀬 真志1, 高木 俊介1, 後藤 隆久2 (1.横浜市立大学附属病院 集中治療部, 2.横浜市立大学医学部 麻酔科学教室)

【背景】心臓腫瘍の発生は0.1%以下と稀であり、発生部位の特異性から循環障害、呼吸障害、塞栓症状など多様な症状を示す。今回、妊娠による循環血漿量増加から肺水腫となり、呼吸困難を主訴に発見された巨大左房腫瘍を経験し、多職種による集学的治療で母児ともに救命し得たので報告する。
【症例提示】22歳女性、身長155cm、体重59kg。既往歴、妊娠経過に特記すべき事項なし。妊娠31週に乾性咳嗽と血痰が出現し、胸部CTで両側肺野のびまん性すりガラス影を認め、他院でフォローされていた。症状増悪し、当院救急受診。心臓エコーを施行し、左房全体を占める腫瘍が見つかった。
【臨床経過】治療方針について関係部署の医療従事者で協議をした結果、児娩出を先行し、止血確認後に左房腫瘍摘出の方針となった。妊娠33週に全身麻酔下に帝王切開を施行し、術後に挿管下でICUに入室した。術後は巨大左房腫瘍による肺動脈圧上昇(体血圧:130/75、肺動脈圧:56/28)を認め、綿密な循環管理を要した。児娩出後より血痰は消失した。術後3日目に人工心肺を使用した左房内腫瘍摘出術を施行し、術後5日目に抜管、術後6日目にICU退室となった。
【考察】本症例は左房腫瘍に伴う肺水腫が妊娠による循環血漿量増加により顕在化し、呼吸困難と血痰を生じたと考えられた。心臓腫瘍合併妊娠の治療方針に関して、明確な戦略は存在せず、我々は1.妊娠を継続し、心臓腫瘍摘出後に児を娩出、2.帝王切開と同時に心臓腫瘍を摘出、3.帝王切開後に心臓腫瘍を摘出という3つの方針を検討した。産科は妊娠33週と児の生存は見込めるが、帝王切開と心臓腫瘍の同時手術は困難との判断であった。心臓血管外科は可及的速やかな手術が必要との判断の一方で、人工心肺の与える児への影響と、ヘパリン化による血痰の増悪、子宮からの出血を懸念した。麻酔・集中治療部は同時手術及び出血のリスクを考え、さらに帝王切開を先行した場合、左房腫瘍による僧房弁狭窄症の管理と腫瘍による塞栓のリスクを想定した。各科で協議を重ね、児の生存が見込める週数であり、人工心肺が及ぼす母体と胎児への影響を考慮し、全身麻酔下に帝王切開を先行し、その後心臓手術を行う方針とした。心臓腫瘍合併妊娠の治療戦略は、妊娠週数、胎児の状態、患者の全身状態を参考に、関係各科で綿密な議論を行い慎重に決定する必要があると考えられた。