[P4-1] Becker型筋ジストロフィー小児患者の右室二腔症患者に対し,完全静脈麻酔を施行した一例
【背景】Becker型筋ジストロフィー(以下,BMD)はX連鎖劣性遺伝をとり,多くはデュシェンヌ型に比すと軽度ではあるものの,同様にジストロフィン遺伝子の欠失により筋繊維の変異を起こし,近位筋筋力低下,歩行・起立障害,高CK血症を引き起こす疾患である.悪性高熱症候群(以下,MH)の発症リスクに関しては高くはないとされているものの,MH様症状を呈した報告もあり,更なる検証が求められている.【臨床経過】本例では,4歳男児,110cm,17kg,BMDを有する患者に対して,人工心肺を用いた右室心筋切除および心室中隔閉鎖術施行が予定された.高CK血症により手術延期となった経緯があったため,麻酔は全静脈麻酔(以下,TIVA;プロポフォール6-10mg/kg/hr)を選択し, ミダゾラム, デクスメデトミジンも使用した。TOFモニターを使用しながら,ロクロニウムを導入時0.6mg/kg投与,筋弛緩薬の追加はTOF countが0から1になり次第,0.1-0.2mg/kgとした.MHの発症時に備え,ダントロレンの準備およびMHの典型症状であるETCO2の高値,頻脈,高体温,褐色尿,代謝性アシドーシスに注意した.手術終了後はミダゾラム,デクスメデトミジンで鎮静し,ICUに帰室した.手術終了約6時間後に抜管され,その後も高CK血症や呼吸筋障害は認めず一般病棟に転棟した。【結論】本例は,BMDを有する小児患者に対する麻酔症例報告である.本例は小児でありプロポフォール症候群のリスクのため,最小限のプロポフォールと他の鎮静剤を併用した。また非脱分極性筋弛緩薬に対する感受性の亢進や作用時間の延長も危惧されるため,必要最小限のロクロニウムの投与をした。ジストロフィン変異疾患でCaイオン誘発性代謝亢進が起こることがあり,高熱や代謝性アシドーシスなどのMH様症状を引き起こすとされている.BMDではMHの危険性は低く、脱分極性筋弛緩薬を使用せず、吸入麻酔薬で維持し問題なく経過した報告は数多くある。また、MHとRYR1遺伝子の変異の関連が着目されており,BMDとRYR1遺伝子変異に直接の関連性はないとされている.しかし,安静時の高CK血症でRYR1の変異が認められた症例もあり,本例のように高CK血症の既往がある場合,周術期のMH高リスクとして対応することを提示したい。