[P4-2] Vascular slingに先天性気管狭窄症を合併し呼吸管理に難渋した一例
【背景】vascular slingは先天的な血管奇形で気管狭窄を生じ、先天性気管狭窄を合併することも多い。保存から外科的まで治療方法があるが、選択基準ははっきりしない。今回、呼吸管理に難渋したが保存的加療が奏功した一例を経験したので報告する。【症例】7か月女児。生後6か月より喘鳴が出現し気管支喘息の診断で治療が開始されたが、喘鳴増悪、陥没呼吸、低酸素血症認めたためICU(intensive care unit)に入室となった。3.5mmカフなしチューブで挿管を試みたが声門下3.0cmまで進めようと試みたが、1.5cm以遠には進まなかった。造影CTにより気管分岐部直上のvascular sling部を最狭窄部とする先天性気管狭窄症と診断された。【ICU経過】気管支鏡では膜様部のない完全気管軟骨輪を認め、感染が原因と思われる粘膜の浮腫と発赤を認め刺激で容易に増悪した。それ以上のチューブ挿入は不可能であり、極めて浅い気管チューブ位置での管理を余儀なくされた。挿管直後、PCV(pressure control ventilation) 30cmH2O、PEEP 5cmH2O、呼吸回数30回/分の呼吸器設定で、一回換気量35mlと換気量が取れず、フローパターンは呼出障害を示した。ロクロニウム持続投与、抗菌療法、アドレナリン吸入、デキサメサゾン点滴を開始したところ、第3病日より気道抵抗の低下を認め、第8病日にPRVC(pressure regulated volume control)、一回換気量 60ml、PEEP 5cmH2O、呼吸回数20回/分の呼吸器設定で最高気道内圧13cmH2Oとなり、フローパターンも改善したため抜管した。【結語】:本症例の気道管理中に議論されたことはvascular sling及び気管狭窄に対し外科的介入を行うべきか否かであった。これまでの報告では、1歳前後に症状が顕在化する患者では気管の成長が見込め、保存的加療が可能である一方で、気道感染により急性呼吸窮迫症を発症し、繰り返す場合は肺の気腫性変化をきたすリスクがあるとされる。小児では気道径が50%狭小化するまで呼吸症状は顕在化しないとされ、症状の顕在化は手術を決断する重要な要素であり、外科的介入は専門施設で管理すれば安全とする報告もある。本症例では感染による炎症の急性期に手術侵襲を加えることは望ましくないと判断し外科的介入は行わなかった。呼吸管理に難渋したが、治療による炎症の改善とともに気道浮腫が改善し、抜管可能であったと考えられた。