[P59-6] POT法を用いたICUにおけるMRSA交差伝播の解析
【背景】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSA)は、医療関連感染を起こす代表的な薬剤耐性菌である。MRSAの感染症はICUにおいてしばしば問題となり、治療を難渋させる要因となる。名古屋市立大学病院ICUでは、入室時及び定期的にMRSA監視培養を行っている。また、現在行っている手指衛生の励行や接触感染予防策などの交差伝播予防活動に加え、さらなる感染対策の方策を模索する必要がある。【目的】2016年10月1日~2017年9月30日までに名古屋市立大学病院ICUに入室し、48時間以上在室した成人患者を対象とした。監視培養もしくは臨床培養から、入室後48時間以内にMRSAが検出された患者を「持込群」、48時間以降にMRSAが検出された患者を「獲得群」とした。「獲得群」から検出されたMRSA、及び「獲得群」に対する交差伝播元を疑う患者から検出されたMRSAを基準に沿って後ろ向きに選別し、phage open reading flame typing法(以下POT法)を用いて分子疫学解析を行った。解析結果より、POT型の数値が全て一致した場合に同一由来株とした。本研究は、名古屋市立大学病院研究倫理審査委員会の承認を得た(管理番号60160068)。【結果】総入室患者は473名であり、そのうち20歳以上かつ48時間以上在室した患者は115名であった。MRSA持込群は21名、獲得群は5名であった。獲得群5名の内、4名(患者A~D)は在室時期にMRSA検出患者が近隣ベッドに在室していた。残りの1名(患者E)は、入室したベッドの前入室患者がMRSA検出患者であった。獲得群5名の内、POT法の結果から伝播元を疑う患者と同一POT型となったのは2名(患者B、E)であり、ICUにおける交差伝播が示唆された。患者Eは、一週間前の同一ベッド前入室患者と同一POT型であり、入室期間が重複しない患者間での伝播が示唆された。【結論】感染対策を行っていても、MRSAの交差伝播が示唆される事例が存在することが明らかとなった。さらなる手指衛生、接触感染予防策の徹底に加え、清掃手順の見直し、新たな清掃方法の導入など、環境に残存するMRSAを除去するための対策が必要である。【会員外共同研究者】近藤周平、畑七奈子