第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

呼吸 症例

[P70] 一般演題・ポスター70
呼吸 症例05

Sat. Mar 2, 2019 2:00 PM - 2:50 PM ポスター会場8 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:松田 憲昌(小倉記念病院 麻酔科・集中治療部)

[P70-3] 前傾側臥位が酸素化改善に有用だった高度肥満患者の一症例

長谷川 和子, 井上 茂, 天野 靖大, 三木 雄輔, 前田 翔, 横山 祐太郎, 鈴木 章悟, 足立 裕史, 西脇 公俊 (名古屋大学医学部附属病院 麻酔科)

仰臥位での人工呼吸は重力依存性に背側気道への分泌物貯留や背側無気肺を生じやすい。さらに肥満症例では機能的残気量減少も加わり、酸素化が悪化しやすい。これに対して呼気終末陽圧やリクルートメント手技、座位や腹臥位などの体位療法が有用とされる。
症例は75歳、女性。身長148cm、体重101kg(BMI 46.1kg/m2)で呼吸器疾患の既往はなし。食道癌で腹臥位胸腔鏡下食道亜全摘・胸骨後経路胃管再建・3領域リンパ節郭清術を施行した。術中はP/F比200程度で、手術終了後は人工呼吸を継続し術翌日に抜管予定とした。術翌朝にたこつぼ心筋症と洞停止による徐脈を発症し、右大腿静脈より挿入した一時的ペースメーカーによるリズム管理と心負荷軽減目的に人工呼吸器管理継続となった。この時点では褥瘡予防に左右30°程度までの側臥位に軽度頭高位を加えて人工呼吸管理を行っていたが、明らかな肺炎や気胸等はないがP/F比73と酸素化は不良であった。同日の仰臥位での気管支鏡所見では分泌物貯留はなく、重力で背側の肺区域気管が閉塞する所見を認めた。背側無気肺が酸素化不良の一因と考え、術後2日目より無気肺解消に体位療法を取り入れた。患者は頚胸腹部に複数ドレーンが挿入され、右大腿静脈から一時的ペースメーカーカテーテルを留置されている状態で、腹臥位や座位をとることは困難であった。代替策として前傾側臥位で体位療法を選択した。術後2日目の体位療法では、呼吸器の設定変更は行わなかったが前傾側臥位を開始3時間後にP/F比301にまで改善がみられた。仰臥位に復帰2時間後では、P/F比118と再度悪化した。その後も前傾側臥位による体位療法を継続しながら、併せて心機能補助・体液管理も行った。
術後7日目に心機能は改善し、手術による炎症極期は脱していること、術前体重近くまで体液コントロールされていることから仰臥位で自発呼吸トライアルを施行した。この自発呼吸トライアルは酸素化悪化(P/F比360→160台)と頻呼吸出現で断念した。術後8日目に前傾側臥位で自発呼吸トライアルを再度実施し成功後に抜管した。抜管後も体位療法は継続し、非侵襲的陽圧換気療法を2日間行い、その後は順調な経過をたどった。本症例では前傾側臥位で事故抜管やスキントラブル等の合併はなく、前傾側臥位時の下側肩の痛みの訴えがあったが、除圧や体位変換で対応できた。
結語として、高度肥満症例の酸素化改善に体位療法として前傾側臥位が有用であった。