第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

患者管理

[P79] 一般演題・ポスター79
患者管理04

Sat. Mar 2, 2019 2:00 PM - 3:00 PM ポスター会場17 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:稲波 享子(京都第一赤十字病院)

[P79-1] 重症筋硬直性ジストロフィーを合併した腹部大動脈瘤に対し、周術期に工夫を凝らして救命した1症例

阪越 信雄 (紀南病院 心臓血管外科血管外科)

≪背景≫重症の筋硬直性ジストロフィー(MD)を合併した腹部大動脈瘤(AAA)に対し、術式・麻酔法・術後管理などに工夫をこらして救命した。≪臨床経過≫症例:66才の女性。35才でMD、55才で糖尿病(HbA1c:7.1%)を指摘された。61才時に腹部エコー検査で偶発的に39mmの腎動脈下AAAを発見。経過観察中に52mmに拡大したため加療目的に入院した。MDによりほぼ寝たきりで短時間のつかまり立ちは可能。誤嚥と眼瞼下垂を認め、MDRSスコアはgrade-5と重症であった。入院時検査:高脂血症を認めたが、心電図・心エコーに異常はなかった。術式:破裂予防のためAAA修復を予定したが、重症MDを合併しているため開腹人工血管置換術に比して低侵襲な血管内ステント治療(EVAR)を選択した。麻酔と手術:プロポフォール・レミフェンタニルで導入しラリンジアルマスクを留置。その後bispectral index値が40以下になるようにプロポフォール・レミフェンタニルを持続投与した。ロクロニウムは筋弛緩モニター併用下に持続投与した。両側大腿動脈アプローチでEVARを施行した。手術終了後にスガマテックスを投与し筋弛緩作用が消失したことを確認。ラリンジアルマスクを抜去してICUに入室した。手術時間は2時間30分、麻酔時間は3時間20分であった。術後経過:術翌日に一般病棟に帰室。肺炎予防目的で定期的な体位変換を行った。術後2日目に全介助でベッド端座位とし監視下に嚥下訓練食を開始した。術後8日目に嚥下造影検査を施行し、誤嚥が軽微であることを確認してトロミ付の全粥・副食に変更した。その後も積極的にリハビリを継続し、術後10日目でつかまり立ち・自己体位変換が可能となった。術前とほぼ同様の日常生活能力まで回復した術後14日目に自宅へ退院した。≪結論≫本例は年齢66才と比較的高齢でMDRSスコアgrade-5の重症例であったが、低侵襲なEVARを選択したこと、術中筋弛緩モニターを併用したこと、気道粘膜への刺激が少なく術後の気道分泌物が少なくなるラリンジアルマスクを使用したこと、術後早期から積極的なリハビリを施行したこと、などが奏功して呼吸器合併症なく無事に退院できたと考えている。MD患者の平均寿命は55歳でその主たる死因は呼吸器合併症・不整脈とされるが、今後、全身管理が進歩すれば生存期間も延長する可能性があり、MD合併例に対する手術も増加すると思われる。その際には本例のような周術期の工夫が重要となろう。