第46回日本集中治療医学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD1] パネルディスカッション1
医療事故と刑事民事訴訟

Fri. Mar 1, 2019 2:40 PM - 4:40 PM 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:大嶽 浩司(昭和大学医学部麻酔科学講座), 木内 淳子(滋慶医療科学大学院大学)

[PD1-4] 裁判における証人の役割と事故調査の意義

水沼 直樹 (文京あさなぎ法律事務所)

オンデマンド配信】

 法律家が医師に対してする専門家としての相談・証人出廷の依頼は,多くの場合が民事裁判に関するものであるが,中には刑事裁判に関するものもあり,両者には異同がある。
 刑事裁判・民事裁判のいずれも,原告・被告のいずれの弁護士であれ,患者の診療録,看護記録等の診療記録,診療ガイドライン等を用いて,医療行為の過失の有無,結果に対する因果関係の有無等に関して,専門的知見からの意見を聴取し,証人出廷を依頼する。
 民事裁判の場合,医療側代理人としては,依頼元の医療機関より当該記録を入手して相談に臨むため,専門家は,電子データ等を直接閲覧することが可能である。また,医療側代理人は,医師が必要とする医療記録を事前に準備して面談に臨むことが可能である。
 これに対して,刑事裁判の証拠は一般に紙媒体であり,電子カルテやCT・MRIの複写が証拠として弁護人に開示されるため,相談時にも紙媒体となることがある。また,刑事裁判の証拠は,起訴後に開示され,かつ,検察官が把握する証拠の“一部のみ”が開示されるに過ぎない。さらに,すべての弁護士が,医療刑事事件に通じているわけではない(しかも,膨大な記録を医師に送付するのは申し訳ないとして,弁護士が資料を選別すると,かえって,重要情報が欠落する場合もある)。これらの結果,相談を受けた医師は,期待するすべての医療記録を閲覧できない場合がある。したがって,相談を受けた場合には,不足する必要な医療記録の入手・開示を弁護士に求めると良い。なお,刑事裁判の場合,ほぼ確実に,証人出廷が予想される。
 主尋問(依頼元からの尋問)は,事前に入念な打ち合わせが可能であり,さほどの労力はない。しかし,反対尋問(相手方からの質問)は,証人の専門性や主張根拠の薄弱さを追及され,当該証人が有する情報に偏りや情報に不足がある等と追及することが常道である。したがって,証言に先立って,十分な情報を得ておくことが肝要となる。安易な推測事実を述べると,反対尋問において恥をかく。
 医療事故調査報告書は裁判の証拠となりうる。特に,民事裁判の場合には,証拠制限がなく,事故報告書が証拠請求されやすい。事故調査の時点で弁護士が関与することは稀であるが,少なくとも,事故調査報告書は,作成者の意思に反して裁判の証拠となり得ることを承知する必要がある。安易な推測事実は,リスクを伴う(なお刑事裁判の場合,報告書において死亡原因が複数考えられ,死亡原因が特定できない場合,治療と結果との因果関係に合理的疑いを差し挟む余地が生まれよう)。手堅い報告書は,少なくとも,客観的に認識された事実を明記し,これを区別して,必要に応じて推測事実を記載することが良い。推測事実が否定されても,客観的事実は証拠としての価値を残すからである。