第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD16] パネルディスカッション16
ICUにおける身体抑制を考える

2019年3月3日(日) 14:00 〜 15:30 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:西村 祐枝(岡山市立市民病院看護部), 山口 典子(長崎大学病院 看護部)

[PD16-1] 抑制しない看護~ICUでの挑戦~

田畑 亜希子, 中尾 弥生, 辻 千芽 (金沢大学附属病院 看護部)

 1998年に発表された「抑制廃止福岡宣言」を皮切りに、2001年には厚生労働省の身体拘束ゼロ作戦推進会議から「身体抑制ゼロの手引き」が発行されるなど、近年医療や介護の現場において身体抑制廃止の動きが高まっている。日本看護倫理学会からも「身体拘束予防ガイドライン2015」が発行され、身体拘束は基本的人権や人間の尊厳を守ることを妨げる行為であることに言及している。しかし集中治療の現場においては些細な事故が患者の生命に直結するため、患者の安全と生命を守る観点から身体抑制を実施せざるを得ない場面も多く、医療者は尊厳と安全のはざまで大きなジレンマを抱えながら身体抑制を実施している現状ではないかと考える。 金沢大学附属病院看護部では「ホスピタリティの探求」を理念に掲げ看護の質向上を目指し、2015年より身体抑制激減と尊厳ある患者への看護実践を高めることを目標に様々な取り組みを開始し、2016年2月には一般病棟及び精神科病棟での身体抑制がなくなった。集中治療部(以下ICU)でも抑制基準、鎮痛・鎮静のあり方を見直し、せん妄調査、薬物使用や覚醒状況の調査、抑制に替わる代替ケアの検討などに取り組み「身体抑制の激減」を目指したが、なかなか抑制件数は減少しなかった。やはり重篤な身体症状に伴う意識障害に加えて、医療機器に囲まれた特殊な環境下にある患者では生命の安全が優先され、これ以上の身体抑制を避ける方策は困難であるかに思えた。しかし一般病棟及び精神科病棟での手厚い看護実践を目の当たりにして、「ICUだからこそ出来ることがあるのではないか」と思いを新たに再挑戦が始まった。身体抑制を行った事例をひとつひとつ丁寧に振り返るうちに、危険だと感じる患者の行動は、患者の中ではストーリー性があり正当な行動であること、抑制することで患者の真のニーズが見えなくなっていることに気づかされた。私たちは議論の焦点を「抑制をするか・しないか」ではなく、患者の行動の理由にシフトさせていった。その患者固有の背景から、一人ひとりの苦痛や不快の原因や行動の理由を考え「ほかにできることは何か」「その方らしく穏やかに過ごすにはどうしたらよいか」を話し合い、治療による身体的回復と並行して「その方にとっての日常性の回復と苦痛の除去」を目指した。この二つの看護を探求していくうちにICUでも抑制を必要とする場面が減っていった。本発表ではこうした私たちの取り組みの一部を紹介したい。