[PD16-3] 痙攣重積によりICUで身体抑制を受けた経験から集中治療医として身体抑制について考える
【背景】身体抑制は人間の尊厳を妨げる行為であり、不必要な抑制は慎むべきである。集中治療医として働く報告者は「患者」としてICUに入室し身体抑制を受けた自身の経験をもとに身体抑制のありかたにつき報告する。【臨床経過】症例は特に既往症のない34歳男性麻酔・集中治療部医師。就寝中にいびきをかき、呼びかけに反応しないため、同居している妻が救急要請した。救急隊接触後、強直間代性痙攣を認め呼吸停止したため補助換気が開始された。来院時の意識はE1V1M5、瞳孔は両側1.5mmで対光反射は認めた。ジアゼパム10mg投与され痙攣は頓挫し、気管挿管され呼吸管理が開始された。来院時の採血では著名なアシデミア(pH6.56、pCO2、62mmHg、HCO3 5.2mmlo/L、Lactate 189mg/dL)を認めた。頭部CTで左前頭葉に長径25mmの出血を認めた.頭部MRIのT2強調画像より左前頭葉病変は血管腫と診断した.ICU入室後は低血圧となり輸液負荷、ノルエピネフリンの持続投与が開始された。心エコーでEF=30~35%と低下しており、中部~心尖部にかけてsevere diffuse hypokinesisを認め、たこつぼ心筋症による低血圧と診断した。抗痙攣薬としてレベチラセタムを投与開始した。入院2日目にノルエピネフリンから離脱したため脳血管造影を行ったが、明らかな血管奇形や出血源は認めなかった。経過良好で同日抜管されたがCVライン等のルート抜去の危険性が高いと判断され肩と前腕の身体抑制が開始された。意識レベルは徐々に改善してきたものの身体抑制されている状況が十分理解できず苦痛であったためベッド上で体動を制御できなかった。鎮静薬投与にて一旦就眠し翌日に再度,事情説明されたが、患者としては突然の出来事であり、事態を直ちに理解することができなかった。入院5日後にICUを退室し、入院30日目にリハビリ病院へ転院した。9ヶ月後に復職している。【結論】麻酔・集中治療部医師が意識障害・痙攣重責により集中治療管理中に身体抑制を経験した。患者として身体抑制されていた間、強いストレスを感じた。患者の立場からすると患者が覚醒時には丁寧に状況説明をすることが重要であると考える。加えて状況理解は容易ではないことを念頭に集中治療医は粘り強く患者に接する必要がある。病識獲得プロセスとしての実体験を他の病態認識と比較して報告する。