第46回日本集中治療医学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD5] パネルディスカッション5
小児脳死下臓器提供の苦悩

Sat. Mar 2, 2019 8:45 AM - 10:15 AM 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:渥美 生弘(聖隷浜松病院救命救急センター), 新津 健裕(埼玉県立小児医療センター集中治療科)

[PD5-1] 小児脳死下臓器提供の苦悩

秋田 千里, 犀川 太 (金沢医科大学 小児科)

平成22年7月17日の法改正以降、マスメディアによる報道や学会の広報活動を通じて、「小児」「臓器提供」「脳死」という医学用語が一般社会に浸透しつつある.平成30年は過去最高の8例の小児脳死下臓器提供が行われている(平成30年9月30日現在、日本臓器移植ネットワークJOT公表).このなかで、複数例の小児臓器提供経験を有している施設はなく、未経験でありながら失敗の許されない移植医療への対応は、どの施設も容易ではない現状が想像される.当院は、平成21年に成人の脳死下臓器提供を経験し、提供者発生時に必要とされる各種会議や院内委員会の活動をフローチャート化するなど全体像を把握しやすくする工夫を重ねてきた.さらに平成25年から小児の脳死下臓器提供シミュレーションを実施し、翌26年に小児対応のフローチャートを作成した.そのような状況下で平成27年12月18日に6歳以上10歳未満の男児の脳死下臓器提供を経験した(症例番号357.JOTホームページ). 今回の小児脳死下臓器提供で主治医が最も苦慮したのは、臓器提供の適応と臓器保護の判断であった.重症患者の管理と平行して情報収集と知識の蓄積に務めたが、臓器提供の適応やそれに関する細則は短時間では理解し得なかった.そのため、両親の質問に満足な回答ができたとは言えず、両親の逡巡とともに主治医も終末期医療と臓器保護の間で揺れ動いた.脳死とされうる状態の判定から臓器提供までにおよそ1ヶ月を要し、その間「十分な臓器保護」を意識した医療は行えなかった.本症例は4臓器を4人のドナーに提供することができたが、厳格な臓器保護でより多くの臓器でドナーを救命できた可能性があり、遺恨が残った.今回の経験を通して、1)地域行政との連携、2)シミュレーションの有用性と限界、3)フローチャートの問題点と今後の課題が明らかになった.本例は自宅での事故が契機であったため、事件性の判断が臓器提供に大きく関わっていた.しかし、警察への連絡は臓器提供希望後であったため、始動が遅れ混乱を招いた.小児脳死下臓器提供は、虐待の除外を含め院外組織との連携が必須であり、連絡を密に行う必要がある.「臓器提供の希望後」を前提としたシミュレーションは各種会議と委員会の活動を円滑に進める上で非常に有用であった.しかし、短時間で膨大な情報が主治医に集中し、これが主治医を消耗させる大きな要因となった.主治医へ提供する情報の絞り込みと分散を含めたフローチャートの改善が必要である.さらに、移植医療に関する知識はシミュレーションでは主眼に置かれないため、突然主治医となった医師の知識不足を短時間でどのように補うかも今後の課題である.