第46回日本集中治療医学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD5] パネルディスカッション5
小児脳死下臓器提供の苦悩

Sat. Mar 2, 2019 8:45 AM - 10:15 AM 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:渥美 生弘(聖隷浜松病院救命救急センター), 新津 健裕(埼玉県立小児医療センター集中治療科)

[PD5-2] 市中総合病院小児科からの提供例

大坪 善数1, 坂本 理恵子2, 横川 真理1, 角 至一郎1, 橋本 邦生3, 大西 愛3 (1.佐世保市総合医療センター 小児科, 2.熊本大学 医学部付属病院 小児科, 3.長崎大学病院 小児科)

2017年1月に小児の脳死下臓器提供例を経験した。当院では成人の脳死下臓器提供の経験があり、成人に関してはすでに施設体制や関係スタッフの連携は構築されていた。当院は地域の中核病院として重症小児の治療に当たっており、これまでも小児脳死を数例経験していたが、脳死下臓器提供のオプション提示を行ったことがなかった。本事例が初めての脳死下臓器提供のオプション提示であった。しかし、その時点までほとんどの小児科医が脳死下臓器提供の適応病態や小児の脳死判定方法に精通しておらず、虐待対応委員会や院内マニュアルの存在を認識していなかった。これは大学病院や小児専門病院と違い、小児の移植医療に携わる経験の少なさが故に、小児の脳死下臓器提供の準備、確認を怠っていたことになる。幸い施設体制は整備されており脳死下臓器提供を進めることができた。脳死判定は小児の脳死判定経験の豊富な他施設の医師同席のもと、当院の脳死判定委員会メンバーが施行した。
(症例提示)生体肝移植のレシピエントとなった1歳児が脳死下臓器提供のドナーに至る特殊なケースを経験した。生来健康の男児が原因不明の急性肝不全を発症し、移植施設に転院後に母親から生体肝移植を受けた。しかし移植後に意識レベルの回復が見られず、移植2週間後に急性脳症を原因とする脳死たる状態と診断された。当院転院後に児の不可逆的状態を理解した家族は脳死下臓器提供を選択した。
2010年7月の改正臓器移植法施行後も小児の脳死下臓器提供は非常に少なく、本例は6歳未満のドナーとしては7例目であった。1歳児が順次レシピエントからドナーとなり、母親は自らがドナーとして肝臓を提供した我が子の脳死を受け容れ臓器提供を決心した。この特殊な状況を通して、小児の脳死下臓器提供における問題点を考察した。脳死たる状態と判断した時点で、「看取り」(治療の差し控え・中断)、「長期脳死」(在宅医療含めて)、そして「脳死下臓器提供」の選択肢が生まれる。脳死は、小児の集中治療施設では避けられない事例であるが、病院形態の違いによりその方針や体制には違いが見られる。小児の脳死下臓器提供を進めるにあたって、小児ドナー臓器の小児への優先移植、小児専門の移植コーディネーターや臨床心理士の拡充、情報公開の方法策定、小児医療従事者の臓器移植に関するトレーニングの場の確保などが必要である。臓器提供による救命あるいはQOLの改善を多くの子ども達とその家族が待っており、早急にこれらの問題点を解決する必要がある。