第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD8] パネルディスカッション8
敗血症の基礎研究 Bench to bedside

2019年3月2日(土) 08:45 〜 10:15 第7会場 (国立京都国際会館1F Room E)

座長:井上 茂亮(神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野), 松田 直之(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)

[PD8-2] 敗血症性多臓器障害における加齢好中球の関与

平野 洋平, 近藤 豊, 岡本 健, 田中 裕 (順天堂大学医学部附属浦安病院 救急診療科)

【背景】近年、単一細胞系と考えられていた好中球にも、多様な表現型(サブタイプ)や機能が存在することが明らかになってきている。中でも表面レセプターCXCR4の発現は、好中球の加齢とともに上昇するといわれており、この「加齢好中球」はin vitro、マウスモデルにおいて炎症性が強いサブタイプであることが知られている。しかし、加齢好中球のヒト敗血症における動態やその病態的意義に関しては明らかにされていない。【目的】血中のCXCR4陽性好中球(加齢好中球サブタイプ)の、敗血症重症度や臓器障害との関連を明らかにすること。【対象】2017年1月から2018年6月に当院救命センターに入院し、敗血症と診断され、かつ本研究に同意された患者17例【方法】対象患者から入院72時間以内に血液サンプルを採取し、好中球を分離後、APC蛍光標識CXCR4抗体を添加し、フローサイトメトリー法を用いて、血中全好中球におけるCXCR4陽性好中球割合を定量化した。得られた加齢好中球割合と種々の臨床臓器障害パラメーター(AST, ALT, BUN, クレアチニン, PaO2/FiO2 ratio, 血小板数)および重症度スコア (SOFA score)、急性期DIC scoreの相関関係を評価した。【結果】血中CXCR4陽性好中球割合は有意にSOFA score, DIC score ,AST, ALTと逆相関関係を認めていた(SOFA score: correlation coefficient, r = -0.55, p=0.02, DIC score: r=-0.52,p=0.03, AST: r=-0.54, p=0.03, ALT: r=-0.48, p=0.04)。また、血中血小板数と有意な相関関係を認めていた(r = 0.57, p=0.02)。その他の測定された臓器障害パラメーター(BUN, クレアチニン, PaO2/FiO2 ratio)とは、有意な相関関係は認められなかった。【結語】本研究の結果は、血中の炎症性加齢好中球サブタイプ割合が敗血症の重症度や肝障害、凝固障害に関与している可能性を示唆するものである。さらなる研究が必須ではあるが、好中球の「年齢」をコントロールすることで敗血症における炎症を制御し、臓器不全発症を防ぐ斬新な治療戦略開発への第一歩となるかもしれない。