[SY18-2] 敗血症ガイドラインで時間軸が取り入れられた背景、エビデンスについて
【 同時通訳付き】
体内に侵入した病原菌が全身性に猛威を振るうと,生体防御反応として種々のメディエータが産出され、このメディエータは,血管内皮細胞障害に伴う血漿成分の漏出や全身血管の拡張を引き起こす。その結果,循環血液量が相対的に不足したショック状態が惹起され,細胞障害が引き起こされる。細胞障害による壊死細胞から内因性ダメージ分子が放出され、それにより様々な臓器障害が惹起される。つまり、敗血症性ショック管理における重要なポイントは、感染のコントロールとショック管理であるが、予後改善に関してはもう一つの重要なポイントが示されている。それが時間の因子である。外来微生物のコントロールを目的とした抗菌薬投与までの時間が、予後に大きく影響することがKumarらにより報告され、JSSCG2016では、「敗血症,敗血症性ショックに対して,有効な抗菌薬を1時間以内に開始する(エキスパートコンセンサス/エビデデンスなし)」、SSCG2016においても、「敗血症と敗血症性ショックを認識した場合には、できるだけ早く、1時間以内に抗菌薬の静脈内投与を行うことを推奨する(強い推奨、中等度のエビデンスレベル)」と記載されており、感染巣ドレナージ等も含めた早期の原因菌、感染巣コントロールの重要性が強調されている。一方、Guらは、敗血症性ショック症例の目標達成指向型管理法(goal-directed therapy:GDT)に関する13の研究(n=2,525)の中で、GDTを行うのに時間制限を設けていなかった6研究だけを抽出してメタ解析を行うと、死亡率に関してGDT群とコントロール群の間に有意差は認められなかった (P =0.59)が、GDT を6時間以内に達成するとした7研究を解析すると、コントロール群と比較してGDT群は死亡率を有意に低下させていた(P =0.0004)。これから分かることは、敗血症性ショックにおける初期蘇生には時間の因子が極めて重要であり、Riversらが提唱したEGDTとは、組織酸素代謝バランスを改善させるというプロトコルであるが、それ以上に6時間以内という時間の概念を治療戦略に組み込んだ画期的なプロトコルであると言える。Aggressive fluid resuscitationの普及も彼らの業績であるが、敗血症性ショックを制限時間内に立て直すには、必然的に急速大量輸液療法が必要となる。逆に、時間の概念がなければ、いくら急速大量輸液を行っても予後は改善しない。現在では、感染コントロールとショック管理に関して時間を考慮した敗血症バンドルが提唱され、予後改善に大きく貢献している。近年は3-hourバンドル、The Surviving Sepsis Campaign Bundle: 2018 Updateにおいては、1-hourバンドルが提唱され、時間の重要性は今まで以上に強調されてきている。以上のことを踏まえ、本シンポジウムでは、敗血症ガイドラインで時間軸が取り入れられた背景、エビデンスについて概説する。