第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY5] シンポジウム5
我が国の集中治療領域におけるmoral distressの現状

2019年3月1日(金) 16:05 〜 17:35 第18会場 (グランドプリンスホテル京都B2F プリンスホール1)

座長:氏家 良人(函館市病院局), 宇都宮 明美(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

[SY5-2] 医師の立場から考えるmoral distress

重光 秀信 (東京医科歯科大学 生体集中管理学分野)

ライブ配信】

ICUでは病気の治療に必要とされる最新のテクノロジーを多く備えている。しかしながら、ICUで働く多くの医師及び看護師が、患者の病態の終末期いわゆるend of lifeにおいて、このテクノロジーをどのように効率よく使用し生命を維持していくかという問題に直面することは少なくない。近年これらの問題の一つとして取り上げられているのがMoral Stressである。Moral Stressとは患者の治療内容の方向性と患者ケアーに従事している医療者個人の倫理的観点に相違が起こった場合に、医療従事者に起こり得る精神的ストレスのことである。ICUにてMoral Stressが起こり得るいくつかの例としては、1)患者にとって倫理的に最善とは言えないがあらゆる理由で生命を維持している場合、2)患者の終末期医療に関して、医療従事者、患者、家族間の十分とはいえないコミュニケーション、3)患者ケアーに対する医療資源の不適切使用、4)患者ケアーに携わる医療従事者の数が不十分な状況、5)患者や家族に必要以上の希望を与えたこと、などが挙げられる。
Moral Stressの根源は医療従事者の患者ケアーに対する無力感から起こるといわれており、これは医療従事者が患者ケアーに関わることで起こりうる対立への不安や自己判断への疑問、もしくは職場でのパワーバランスに起因することがある。
Moral Stressに対応する方法はいくつか挙げられる。その一つとして患者の病態が悪化するにつれ、医師や看護師などの医療従事者が患者ケアーの方向性や判断に関わる内容を早期に患者や家族とコミュニケーションを取りながら治療方針を決定していくshared decisionである。これは、医師と看護師の過労やストレスの減少につながることを目的としている。その他にも4A’s(Ask, Affirm, Assess, Act)というステップを医療従事者が行うことで、Moral Stressの早期認識および適切な対応により、その影響を最小限に抑えることができる。