[SY6-1] 適切な蛋白栄養は重症患者の機能的予後の改善に寄与する
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集中治療の高度化により、重症患者管理の目標は純粋な救命から身体機能を維持して社会復帰を目指す方向に変遷してきた。これに従い重症患者に対する栄養療法にも、刻々と変化する代謝動態に対応し、身体の組成および機能を維持または回復させる効果が求められている。体内の蛋白質は骨格筋を構成するほか、重症病態の侵襲に対する生体反応を担う免疫細胞や反応を制御するmediatorの構成成分でもあり、内因性のエネルギー源としても利用される。高度侵襲下では内因性のエネルギー源が優先的に利用されるため、重症病態の早期には異化反応が亢進し、筋蛋白の喪失と引き換えに侵襲に耐えている。こうした機序を反映して、骨格筋量が少ない重症患者では救命率が低くなることが報告されている。また、集中治療を要する患者では鎮静下の長期臥床や人工呼吸補助などによる廃用が引き起こす身体機能の低下(ICU acquired weakness)がしばしば問題となるが、異化亢進状態が引き起こす筋組織の喪失もその発症に関与する。侵襲下の異化反応はエネルギー補給や蛋白投与のみでは抑制されないが、適切なエネルギー投与下に効率よく蛋白質およびアミノ酸を投与することで、蛋白合成が刺激される。早期には筋蛋白の合成が異化を上回ることはないが、効率よく継続的に蛋白投与を行うことで可能な限り筋組織を維持して、機能的予後の改善を目指すことが可能であると考えられる。実際の蛋白投与量については「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」では 1.2g/kg/day以上の投与を推奨しているが、単一の栄養製剤でこの投与量を実現しようとするとエネルギーの投与量が過剰となる可能性が高い。過剰栄養はそれ自体が感染性合併症などのリスクを高めるため、安全に蛋白投与をするためには、エネルギー投与量を抑えた高タンパク栄養製剤を用いるか、経静脈的アミノ酸製剤を投与するなどの工夫が必要である。また、蛋白投与による筋組織の合成を活性化する目的で、自動・他動運動による身体刺激が効果的とする報告もあり、蛋白栄養の効果を向上させる手段として注目されている。重症患者の機能的予後を改善させるための手段として、早期からの適切な蛋白栄養は重要な要素である。適切なエネルギー投与や理学療法と組み合わせることで、重症患者に対するより効果的な蛋白栄養法の確立が期待されている。