第95回日本医療機器学会大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム2 医療現場でコミュニケーションツールとしてのスマートフォンはどこまで安全か?

座長:加藤 伸彦(北海道情報大学),久保 仁(東京大学)

[シンポジウム2] 次世代PHS sXGPについて

本田 秀幸 (ビー・ビー・バックボーン㈱)

1.はじめに
 2020年7月に公衆音声サービスが終了することが発表され,PHSを院内のコミュニケーションツールとして使用している病院では,代替システムの検討が急務となっている.また,近年,スマートフォン(以下スマホ)を院内通信ツールとして活用した取り組みがみられるようになってきたが,Wi-Fiなどの通信方式では電波干渉やセキュリティの課題が指摘されており,これらの課題解決策として,次世代PHS通信方式である「sXGP(shared eXtended Global Platform)」がある.

2.sXGPとは何か
 sXGPとは,従来PHSが利用していた1.9GHzの周波数帯に携帯電話で豊富な実績をもつTD-LTE方式を採用した,自営無線方式の簡便さとLTE方式の汎用性を併せもつ新技術である.1.9GHz帯はわが国や海外で広く使われているLTEの国際バンド「Band39」に包含されるため,この国際規格に準拠してBand39に対応したスマホやデータ通信端末を,手を加えることなくそのまま活用しようというコンセプトで,2017年10月に技術仕様が規格化された.さらに,sXGPで利用する1.9GHz帯はアンライセンスバンド(免許不要の周波数帯)であるため,対応したLTE無線基地局を設置すれば,Wi-Fiのような手軽さで自営LTEの環境を構築できることから,自営内線電話やIoT分野のワイヤレス接続に有効な通信方式とされている.

3.医療分野におけるsXGPの有効性
 sXGPは,病院の通信環境や電波環境の課題を解決できる特徴をもっている.ここでは,医療現場に導入する主な4つのメリットについて述べる.
3-1 医療機器に与える影響が少ない
 病院内のスマホ利用で最も懸念されることは,電波が医療機器へ与える影響であり,PHSが広く医療機関に普及したのは,送信出力が低く医療機器への影響が少ないためである.実際の送信出力を比較すると,PHSの基地局が最大80 mW,PHS端末が最大80 mWであるのに対し,一般的なスマホの最大出力は200 mWとなっている.
 sXGPの最大出力は,基地局が100 mW,スマホが100 mWと,一般のスマホより低出力となっているが,医療機器に与える影響をより客観的に評価するため,弊社では,埼玉医科大学と共同でsXGPによる医療機器への影響調査を実施し,PHSと同等の安全性を確認した(後述).調査概要については,後に詳細にレポートしているので,導入に当たっての参考にしていただきたい.
3-2 カスタマイズ可能な自営LTE
1)災害に強いシステムの構築が可能
 医療機関で要望の多い自社運用(オンプレミス)が可能であるため,停電や災害時に公衆回線を利用できなくなった場合でも,院内の装置自体に故障や停電がない限りは通信に影響を受けない.また,病院内では電波が弱く携帯電話がつながらない場所が存在することがあるが,sXGPでは自ら基地局を設置することで,院内どこでも通話が可能な環境を構築することができる.
2)収容効率と通信速度の向上
 弊社が採用しているアクセスポイントは,PHSとの比較で,次のように収容効率や通信速度が格段に上がっていることから,通話だけではなく,幅広いデータ利用が可能である.
 ・アンテナ毎の同時接続数:3台→16台
 ・速度(上り)32 kbps→4 Mbps
 ・速度(下り)32 kbps→12 Mbps
3)情報システム連携
 TD-LTE(Band39)に対応したスマホを利用できその特徴を活かして,ナースコールなどの既存システムと高度な連携が可能である.
3-3 通信の安全性
 Wi-Fi通信では,傍受の危険性やセキュリティの脆弱性に常に対策とメンテナンスが必要となるが,sXGPの場合はキャリアグレードの強固な認証方式を採用しているため,高セキュリティなネットワークを構築することが可能である.またPHSと同じ周波数帯のため院内で乱立するWi-Fi干渉対策および代替手段として効果的である.
3-4 データ/IoT利用への拡張性
 無線ネットワーク方式として世界で標準であるLTE方式を採用しており,PHSの置き換えで構築したsXGPネットワーク上で,医療機関固有の情報システムとの連携に必要なデータ通信やIoT利用,さらには遠隔医療,在宅医療などへの拡張が可能である.

4.医療機器との影響概要
 本調査では,sXGP規格に対応したスマホで専用アプリケーションを用い,常時,100 mwの電波を放射させ,医療機器の各面に可能な限り近距離で,最低30秒以上電波を放射し続け影響を調査した.調査中はスペクトラムアナライザを用い,上記状態を確認した.結果として対象とした37機種の医療機器のうち4機種(10.8%)で影響が確認された.
 医用電気機器の電波による影響状況のカテゴリー分類を表1に,確認された影響状況を表2に示す.
本調査では,表2に示した通りカテゴリ2と4に該当する影響が確認された.具体的には,カテゴリ2はスピーカからの異音が出る影響であり,電波発射源を遠ざけることで異音が消失し,カテゴリ4は,動作は停止するがアラームの発生により停止を認知可能であり,電波発射源を遠ざけ輸液開始ボタンを押すことで正常状態に復帰可能であった.
S2-3_1.png
S2-3_2.png
 また,影響が発生した医療機器2機種における影響発生距離の最大値は7cm(注射筒輸液ポンプ1)であったが,医療機器と通信端末がこのような近距離となる状況は想定されないと考える.
 本調査結果に基づき,sXGP端末を利用する際には,「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」2)のPHSの使用に関するルールを適用することで医療機器へ与える影響のリスクを軽減させることが可能で,医療機関内で使用されるPHS端末の代わりとなり得ると考えられる.

5.普及にむけて
 本稿では,医療機関へのsXGP導入のメリットについて述べた.弊社としては,sXGPの普及促進を通じて,医療の質向上はもちろん,医療現場における働き方改革にも寄与したいと考えている.

参考文献
 1)総務省:「電波の医療機器等への影響に関する調査」報告書, 平成29年3月
   https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/h28.pdf(2019年10月15日現在)
 2)電波環境協議会:医療機関における携帯電話等の使用に関する指針─医療機関でのより安心・安全な無線通信機器の活用のために─, 平成26年8月19日