第96回日本医療機器学会大会

講演情報

教育講演

教育講演2 滅菌供給部門における職業暴露とその対策

座長:吉田 理香(東京医療保健大学)

[教育講演2] 滅菌供給部門における職業曝露とその対策

齋藤 祐平 (東京大学医学部附属病院)

曝露とは,問題となる因子に特定の集団あるいは個人がさらされることである(出典:リスク学用語小辞典).ここでいう因子には,病原微生物や薬物,化学物質,物理的要因などが含まれる.滅菌供給部門においては,洗浄対象物に付着した微生物やそれを含んだ血液などの生体由来物質,消毒薬や抗がん剤などの薬剤,洗剤や滅菌剤などの化学物質,室温や湿度が極端に上昇した労働環境などが該当すると考えられる.
滅菌供給部門においてこれらの因子への職業曝露が生じる状況は,業務の種類によって異なり,例えば使用済み器材の回収と洗浄準備の業務においては,病原微生物と薬物がリスク因子となる.診療や検査の際に使用された器材には,患者の皮膚や粘膜,組織や臓器などに接触した際に血液や体液,組織残渣などが付着し,あるいは内腔に薬剤が残存する.これらの物質は,患者が罹患している感染症を伝播し,または体内への吸収や化学反応により作業者に影響を及ぼす可能性があるため,滅菌供給部門において回収と仕分けを担当する職員にとってのリスク因子となる.
また洗浄業務でのリスク因子には,病原微生物に加えて化学物質がある.洗浄に用いる洗剤や,洗浄後に器材消毒をおこなう場合の消毒薬は,皮膚や粘膜に触れると炎症を起こす原因となりうる.とくに希釈前の高濃度のものには注意が必要である.また,これらのうち気化する化学物質については,吸入して肺から体内に取り入れてしまう危険性もある.とくに高水準消毒薬については,このリスクが指摘されている.滅菌業務においては,低温滅菌で使用される滅菌ガスや,蒸気の使用に伴う高温や多湿の環境がリスク因子となる.低温滅菌後の器材や滅菌機内部に付着または残留する滅菌ガスは,滅菌終了からしばらくの間はその表面から周囲に徐々に放出されるが,微生物のみならずヒトを構成する細胞に対しても細胞毒性を発揮するため,職員が曝露されれば何らかの健康被害につながる.また高温や多湿の環境での労働は,職員の体調など健康状態に重大な影響を及ぼしうる.
職員が曝露される可能性があるリスク因子に対しては,あらかじめ防護または汚染防止の対策が必要である.皮膚や粘膜への曝露を防止するために,帽子,マスク,手袋,ガウンまたはエプロンなどの個人防護具を装着する.気化して吸入することが健康被害につながる化学物質を扱う場合には,作業場所に局所排気装置を設置して換気を強化する.特定の化学物質に対しては,取り扱う作業場において作業環境での気中濃度の測定と,担当職員による年2回の健康診断受診の実施が,法令により義務付けられている.それぞれの滅菌供給部門でのリスク因子を列挙し,職員への曝露機序を想定することで,健康被害は予防可能である.