4:00 PM - 4:40 PM
[教育講演1] 医療のDXについて考える
~DXを推進するのは誰なのか~
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、既に日常会話に溶け込んでいる語である。一方で、改めてその定義等にて調べると、表現や定義は様々であることがわかる。ここでは、デジタルトランスフォーメーションについて、業界、IT、方法論の観点から医療のDXについて考察し、それを推進するための方策について議論する。
DXについて
DXに関する表現や定義は様々なものが存在する。執筆時点のWikipediaでは、「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」1)と記されている。テクノロジー調査企業であるGartnerでは、「Digital transformation can refer to anything from IT modernization (for example, cloud computing), to digital optimization, to the invention of new digital business models.」2)としており、DXは提唱者あるいは実施者の意図によって表現がさまざまであることがわかる。
「デジタル」に関する概念
「デジタル」に関しては、Digitization, Digitalizationという語がある。これらはDXに至る過程で発生するものである。Gartnerの定義では、Digitizationは「the process of changing from analog to digital form」3)、Digitalizationは「the use of digital technologies to change a business model and provide new revenue and value-producing opportunities」4)と説明されている。
筆者は以下のようにデジタルの適用について整理する。
・デジタル置換:アナログの内容をデジタルデータに置き換える。
・デジタル使用:ある「システム」でのデジタルデータを他の「システム」で使用する
・デジタル活用:ある「用途」のデジタルデータを他の「用途」で活用する
これらを組み合わせながら、システム、モノ、ヒトが協働するワークフローの先にDXが実現されると考える。
DXを支えるIT技術
「デジタル化」や「IT化」は、いずれも20年来使用されてきた言葉である。ここにきてDXが提唱されるようになった背景にはここ数年でのIT技術群の進展がある。代表的なものは以下である。
・クラウドシステム
当初は、遠隔にある「サーバー」、「データ保管場所」程度の位置づけとしてスタートしたクラウドシステムであるが、現在は、システムの自動運用、ネットワーク・電話との融合、AI/機械学習サービスの提供、と大きく姿を変えている。クレジットカード一枚で個人が数億円クラスのシステムを自在に扱える機会が提供されている。
・AI・機械学習
第3次AIブーム当初は理論に関する理解と高度なスキルを必要とするAIであったが、現在は機械学習の一形態として認識され、各種フレームワークやSDK(Software Development Kit)・API(Application Program Interface)の提供とクラウド上でのサービスが展開され個人が容易に扱えるようになった。
・ローコード/ノーコード開発
ここ数年でlow(少ない)code(プログラム)、no code(プログラミング不要)を実現する開発プラットフォームが急速に発展した。機能やテンプレートをグラフィカルな画面を使用して組み合わせることで本格的なプログラミングスキルを必要とすることなく個人がシステムを制御することができるようになった。
医療DXで考慮すべきこと
DXは世界的な潮流であり、小売業、製造業、建設業、教育分野、等々、あらゆる業界や分野に関係するDXが存在する。ここで医療DXに固有の要素として次を挙げる。
・医療情報の標準規格
厚生労働省では、保健医療分野において必要な標準規格を厚生労働標準規格5)として認め、普及を図っており、現在26の標準規格が策定されている。
・医学・医療に関する個人情報保護、倫理、ガイドライン
「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」6)、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」7)、「人を対象とする生命科学・医学研究に関する倫理指針」8)は医療においてITを適用する際には不可欠な知識である。
DXに必要な思考と戦略
ITプロジェクトに旧来からある、ウォーターフォール開発手法、工程表、PDCAサイクル、等の手法や概念はDXとは親和性が低い面がある。DXには、Agile、DevOps、OODAサイクル、等の新たな方法論の適用が必要と考えられる。
DXに必要な戦略として、GartnerはAmbition-Design-Deliver-Scale-Refine9)を提唱している。
IT活用に欠かせない思考として、Computational Thinkingがある。分かりやすい例として、分解、組み合わせ、一般化、抽象化、シミュレーション、10)が提示されている。
DXには人のトランスフォーメーションも不可欠
DXを推進するのは人であるのと同時にDXを阻害するのも人である。DXに必要な各要素の特性をよく理解しDX推進に向けての各個人の研鑽が求められる。
前述したように、DX時代のITは個人で大企業レベルのサービスを享受しフル活用できることである。これまでは大学の研究室や大規模病院の設備を必要としていたことが個人レベルで利用可能となる。
参考文献
1)Wikipedia(日本語)https://ja.wikipedia.org/wiki/デジタルトランスフォーメーション
2)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digital-transformation
3)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digitization
4)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digitalization
5)厚生労働省標準規格 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
6)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
7)厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000027272.html
8)医学研究に関する指針一覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html
9)Gartner The IT Roadmap for Digital Business Transformation
10)テキシコー NHK for School. https://www.nhk.or.jp/school/sougou/texico/
DXについて
DXに関する表現や定義は様々なものが存在する。執筆時点のWikipediaでは、「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」1)と記されている。テクノロジー調査企業であるGartnerでは、「Digital transformation can refer to anything from IT modernization (for example, cloud computing), to digital optimization, to the invention of new digital business models.」2)としており、DXは提唱者あるいは実施者の意図によって表現がさまざまであることがわかる。
「デジタル」に関する概念
「デジタル」に関しては、Digitization, Digitalizationという語がある。これらはDXに至る過程で発生するものである。Gartnerの定義では、Digitizationは「the process of changing from analog to digital form」3)、Digitalizationは「the use of digital technologies to change a business model and provide new revenue and value-producing opportunities」4)と説明されている。
筆者は以下のようにデジタルの適用について整理する。
・デジタル置換:アナログの内容をデジタルデータに置き換える。
・デジタル使用:ある「システム」でのデジタルデータを他の「システム」で使用する
・デジタル活用:ある「用途」のデジタルデータを他の「用途」で活用する
これらを組み合わせながら、システム、モノ、ヒトが協働するワークフローの先にDXが実現されると考える。
DXを支えるIT技術
「デジタル化」や「IT化」は、いずれも20年来使用されてきた言葉である。ここにきてDXが提唱されるようになった背景にはここ数年でのIT技術群の進展がある。代表的なものは以下である。
・クラウドシステム
当初は、遠隔にある「サーバー」、「データ保管場所」程度の位置づけとしてスタートしたクラウドシステムであるが、現在は、システムの自動運用、ネットワーク・電話との融合、AI/機械学習サービスの提供、と大きく姿を変えている。クレジットカード一枚で個人が数億円クラスのシステムを自在に扱える機会が提供されている。
・AI・機械学習
第3次AIブーム当初は理論に関する理解と高度なスキルを必要とするAIであったが、現在は機械学習の一形態として認識され、各種フレームワークやSDK(Software Development Kit)・API(Application Program Interface)の提供とクラウド上でのサービスが展開され個人が容易に扱えるようになった。
・ローコード/ノーコード開発
ここ数年でlow(少ない)code(プログラム)、no code(プログラミング不要)を実現する開発プラットフォームが急速に発展した。機能やテンプレートをグラフィカルな画面を使用して組み合わせることで本格的なプログラミングスキルを必要とすることなく個人がシステムを制御することができるようになった。
医療DXで考慮すべきこと
DXは世界的な潮流であり、小売業、製造業、建設業、教育分野、等々、あらゆる業界や分野に関係するDXが存在する。ここで医療DXに固有の要素として次を挙げる。
・医療情報の標準規格
厚生労働省では、保健医療分野において必要な標準規格を厚生労働標準規格5)として認め、普及を図っており、現在26の標準規格が策定されている。
・医学・医療に関する個人情報保護、倫理、ガイドライン
「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」6)、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」7)、「人を対象とする生命科学・医学研究に関する倫理指針」8)は医療においてITを適用する際には不可欠な知識である。
DXに必要な思考と戦略
ITプロジェクトに旧来からある、ウォーターフォール開発手法、工程表、PDCAサイクル、等の手法や概念はDXとは親和性が低い面がある。DXには、Agile、DevOps、OODAサイクル、等の新たな方法論の適用が必要と考えられる。
DXに必要な戦略として、GartnerはAmbition-Design-Deliver-Scale-Refine9)を提唱している。
IT活用に欠かせない思考として、Computational Thinkingがある。分かりやすい例として、分解、組み合わせ、一般化、抽象化、シミュレーション、10)が提示されている。
DXには人のトランスフォーメーションも不可欠
DXを推進するのは人であるのと同時にDXを阻害するのも人である。DXに必要な各要素の特性をよく理解しDX推進に向けての各個人の研鑽が求められる。
前述したように、DX時代のITは個人で大企業レベルのサービスを享受しフル活用できることである。これまでは大学の研究室や大規模病院の設備を必要としていたことが個人レベルで利用可能となる。
参考文献
1)Wikipedia(日本語)https://ja.wikipedia.org/wiki/デジタルトランスフォーメーション
2)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digital-transformation
3)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digitization
4)https://www.gartner.com/en/information-technology/glossary/digitalization
5)厚生労働省標準規格 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
6)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html
7)厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000027272.html
8)医学研究に関する指針一覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html
9)Gartner The IT Roadmap for Digital Business Transformation
10)テキシコー NHK for School. https://www.nhk.or.jp/school/sougou/texico/