第97回日本医療機器学会大会

講演情報

教育講演

教育講演5 医療現場における滅菌保証の考え方

2022年6月4日(土) 09:00 〜 09:40 第3会場 (アネックスホール F205+F206)

座長:水谷 光(千船病院)

09:00 〜 09:40

[教育講演5] 医療現場における滅菌保証の考え方

高階 雅紀 (大阪大学医学部附属病院 手術部、材料部)

一般社団法人日本医療機器学会では、2021年10月に「医療現場における滅菌保証のガイドラン2021」を上梓しました。2015年に次いで6年ぶりの改訂となります。今回の教育講演では、医療現場における滅菌保証の考え方について、以下のポイントについて解説します。
① 滅菌供給部門の使命は、医療施設で使用された医療機器の再生業務(滅菌供給)の品質を維持することにより、患者の安全を確保することです。品質を維持することとは、「再生処理された医療機器の無菌性を保証する」ことであり、具体的には再生処理された医療機器における微生物の生存確率が10-6以下であることを継続的に保証することです。医療機器の無菌性は、業態や医療施設の規模によって差があってはなりません。医療機器メーカーが製造する滅菌済み医療機器の品質も、大規模病院からクリニックに至るまで、医療施設内で滅菌された医療機器の品質も等しく同等に保証されねばなりません。しかし、医療機器メーカーの品質管理が各種の規制の下で均一に行われるのに比して、医療施設においては施設の管理者や業務の当事者の意識によってその実態に差があるのが現状です。
② 先に述べたように、医療施設内で行われる滅菌供給業務は、医療機器メーカーが滅菌済みの医療機器を製造することとその本質は変わりがありません。よって、滅菌供給は製造業として品質マネジメントシステム(QMS:quality management system)の考え方に則って管理される必要があります。QMSとは、手順やルールを定めて、一定の品質以上の製品やサービスを恒常的に供給する仕組みのことです。
③ 私たちが医療施設内で日々滅菌している医療機器の無菌性を全品検査することはできません。無菌性試験を行った医療機器は汚染されてしまうため、臨床に使用するためには改めて滅菌する必要があるからです。このように全品検査が不可能な場合、品質=無菌性の保証は「工程管理」によって成立します。あらかじめ一定以上の品質の製品が製造される手順を確立し、その手順によって期待された結果が得られることを検証することを「バリデーション」と言います。
④ 医療機器メーカーが行う滅菌供給業務では、処理される医療機器の種類、数量、梱包方法、積載方法などが異なる場合、そのすべてのパターンについてバリデーションが行われます。しかし、医療施設においては毎回のバッチの滅菌物、その数量、積載方法を均一にすることは不可能です。ここが、医療機器メーカーと医療施設におけるバリデーションの考え方の大きな違いになります。医療施設では、自施設が取り扱う最も滅菌困難な医療機器をマスター製品としてバリデーションの対象とし、最も条件の劣悪な梱包方法、積載方法において検証しておく必要があります。一般的に、管腔構造の物、重量物、樹脂製器械などがマスター製品の候補になります。
⑤ 医療施設で使用された医療機器を再生するにあたり、工程管理すべき場面は滅菌だけではありません。たとえば、滅菌前の医療機器に付着しているバイオバーデンは一定量以下に管理されてなければいけません。よって、使用後の医療機器の保管、回収、洗浄についても、自施設内で起こりうる最悪条件においても十分にバイオバーデンを減じていることをバリデーションする必要があります。従来、バリデーションとして滅菌工程の稼働性能適格性確認(PQ:performance qualification)が重視される傾向がありましたが、最新のガイドラインでは洗浄を含めた広い意味でのバリデーションの考え方を重視しています。