第98回日本医療機器学会大会

講演情報

教育講演

教育講演1 洗浄・滅菌業務に関わる皆様に改めて問いたい「我々は日々“何を”“保証”していますか?」

2023年6月30日(金) 10:30 〜 11:10 第1会場 (アネックスホール F201+F202)

座長:水谷 光(千船病院)

10:30 〜 11:10

[教育講演1] 洗浄・滅菌業務に関わる皆様に改めて問いたい「我々は日々 “何を”“保証”していますか?」

酒井 大志 (越谷市立病院 看護部 中央滅菌室・手術室)

【安全な滅菌物とは何か?】
日々の業務に追われ「何を保証しているのか?」あらためて立ち止まり考える機会は少ないのではないだろうか?私たちは、払い出す全ての滅菌物が安全であることを保証しなければならない。滅菌保証と簡単に口にしてしまうが、とても重いものである。
医療機器としての機能・性能を維持したまま、無菌性保証水準(SAL10‐6)、生育可能な微生物の生存確率が100万分の1以下であることが保証された滅菌物が、安全な滅菌物ということが出来る。そのために私たちは研鑽に励み、ときに理不尽に苦しみながらも常に厳しいリスク管理を遂行している。
ロジック的に考えると、滅菌供給部門は製造部門としての一面を持っているため、QMS(製造業における品質マネジメントシステム)に基づいた滅菌保証の手順がガイドラインによって推奨されている。誰がいつ作業をおこなっても品質が保たれるよう、全ての工程で手順やルールを厳格に決める。そして自施設の作業工程が最悪条件下でも「期待する品質を満たせること」を検証と根拠に基づき妥当性を証明する。日常の業務では、証明された範囲内で手順を守り業務をおこなう。そして、逸脱がなかった正しい工程を経た結果を記録に残す、という確実な工程管理が重要になる。
はたして、私たちにとって重要なのはそれだけだろうか?
【誰のために・何のために・そして保証するのか?】
「手順通りに器材を洗浄・滅菌する」それは、あたりまえに過ぎゆく日々の業務かも知れない、だが処理する一つひとつの器材の先には、必ず自施設を信じ手術や診療を受ける患者がいることを私たちは知っている。患者にとって、そのたった一件がすべてなのである。
滅菌管理部門のスタッフが、直接患者に関わることは殆どないかもしれない。だが、私たちの業務は、器材の先にいる何千何万の患者の安全と未来を守ることにつながっている。
滅菌保証とは、その未来を保証することなのである。
【安全な滅菌物の供給を阻む壁】
臨床部門での正しい取り扱いと保管がなければ、患者に使用されるまで無菌性を維持できない。また使用後の取り扱いは、その後に続く洗浄滅菌に影響を与える。適正な設備と人員・コストと時間も不可欠である。安全な滅菌供給業務は、私たちだけが頑張っていても達成されるものではなく、関連する全ての部門との理解と連携 ・ 協力の上に成り立つものであり、関連部門の無理解 ・ 無関心が安全の障壁となるのである。
滅菌業務について必要な話を発信できる環境と滅菌に対する理解、他部署とのコミュニケーションの場が必要なのである。
【私たちは諦めていないだろうか?】
滅菌保証のために必要なことが、設備・予算・人員の不足で実践できない。重要な業務であるのに理解が進まないことを、あたりまえのこととして諦めてはいないだろうか?
施設の大小や理解の有無・職種・雇用形態、受託企業やメーカの皆さんを含め、様々な立場がある、発言し難いこともあるだろう。しかし、その立場に遠慮することなく、より良い滅菌業務のためには何が必要か、分かり易い言葉で、様々なルートから繰り返し伝えることが理解につながる。「滅菌保証のための施設評価ツール」などを活用し他施設との平均と比較することも有用であろう。 私たちと同じように、医師・看護師 ・ 事務職等、それぞれプロフェッショナルとして責務を全うす るために日々力を尽くしている。そして互いに使用する言語や必要な知識が異なるのである。他部門の無理解に苦しむ必要はない、数回話しただけでは分かってもらえなくてあたりまえ、理解を得られなくて当然なのである。努力を放棄しては伝えたいことも伝わらない、私たちは芽胞形成菌のように耐え忍び、タイミングを待って発芽するのだ。
【より良い明日に向けて】
本大会のテーマは「現状を把握してみんなでステップアップ」である。
みんなとは誰か。私は、今まさに本稿を読まれている皆さんであると考える。皆さんは洗浄・滅菌について深く考え研鑽に励む、滅菌業界の未来になくてはならない数少ない存在である。皆さんが活躍を続けステップアップを続けることが、今後のたくさんの患者の利益につながると私は信じている。そして、この専門職が更に発展してゆくことを切に願う。共にがんばりましょう!