第99回日本医療機器学会大会

講演情報

教育講演

教育講演3 蒸気滅菌へのアプローチ

2024年6月22日(土) 09:00 〜 09:40 第1会場 (アネックスホール F201+F202)

座長:大川 博史(東京大学)

09:00 〜 09:40

[教育講演3] 蒸気滅菌へのアプローチ

谷野 雅昭 (川崎医科大学麻酔・集中治療医学)

蒸気滅菌は医療現場における滅菌の第一選択と言われている.当然のことながら蒸気滅菌は滅菌剤として水が気体となった水蒸気を用いている.第一選択たる所以の全てはそこに帰する.医療現場では酸化エチレンガスや過酸化水素ガスなどの他の滅菌法も用いられているが,蒸気滅菌との間にはいくつかの大きな相違がある.そういった違いをしっかりと理解して整理することによって蒸気滅菌が第一選択である理由を把握できるようになってくる.臨床現場においても蒸気滅菌ならではの特徴を念頭に置くことによって蒸気滅菌を正しく効果的に活用できるようになるものと考えられる.したがって,他の滅菌法とはスタンスを変えてアプローチすることが求められるのではないだろうか.
まず,他の滅菌剤は購入することによって入手しなくてはならないが,蒸気滅菌の滅菌剤としての水蒸気は現地において水より作られ,原則的には無制限に使用することが可能である.水は無毒で安全であることは言うまでもない.
つぎに,微生物の殺滅は蒸気滅菌では高温高圧となった水蒸気によって熱力学的法則に則るが,他の滅菌法では化学的になされる.よって蒸気滅菌においては熱力学つまり物理学的に捉えていくことを要する.とはいえ,非常にシンプルな法則の上に成り立っており,そこまで難しく考える必要はない.100%の混ざり物のない水蒸気においては温度と圧力には一対一の相関関係があり,蒸気滅菌の管理・監視を考えていく上で欠くことのできないものである.また,蒸気滅菌では最も抵抗性が高いとされている細菌芽胞のGeobacillus stearothermophilusが生物学的インジケータとなっているが,その殺滅が滅菌の指標となり,物理学的なパラメータと組み合わせて考えていくと良い. Geobacillus stearothermophilusについて求められている要件を知ることは,蒸気滅菌に求められる条件を理解することにつながってくる.くわえて,他の滅菌法と同様,蒸気滅菌においても化学的インジケータがあるが,医療現場でおこなわれる滅菌法の中でタイプ6を入手可能なものは蒸気滅菌の他に見当たらない.タイプの1から6の数字は性能を表すものではないとされているものの,滅菌包装の中に入れて用いるタイプ4〜6について違いをよく理解できているならば,自ずと選択すべきものがわかるようになってくる.以上のように蒸気滅菌を理解するためには物理学・化学・生物学つまり科学をフル動員していかなくてはならない.
蒸気滅菌を科学的に見つめ直し,理解を深めていくことによって,蒸気滅菌のあるべき姿を見つけていきたい.