第42回日本磁気共鳴医学会大会

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教育講演

基礎

教育講演3

基礎1

Thu. Sep 18, 2014 8:30 AM - 9:30 AM 第3会場 (3F 源氏の間南)

座長:尾藤良孝(株式会社日立メディコ MRIシステム本部)

[EL3-2] スピン結合からとらえる乳酸とグルタミン酸1Hスペクトルの違い

渡邉英宏 (国立環境研究所 環境計測研究センター 生体応答計測研究室)

ヒト脳の1H MRSでは、Nアセチルアスパラギン酸、クレアチン、コリンなどのピークが化学シフト差によって検出できる。一方、グルタミン酸や乳酸などでは、電子を介した相互作用であるスピンスピン結合(以下、スピン結合)によりピークが分裂する。この分裂は、結合1H間の化学シフト差と大きさがJHH [Hz](以下、J)で表されるスピン結合との比に応じて決まる。例えば、1.3 ppmと4.1 ppmの1H間で結合する乳酸の場合、化学シフト差2.8 ppmは3Tでは357 Hzである。この差はJ = 6.9 Hzに対して50倍以上であり十分大きく、弱い結合と呼ばれる。この場合、スピン結合は1次近似で扱え、1.3、4.1 ppmのピークはそれぞれ2重線、4重線となる。
 これに対して、グルタミン酸、γ-アミノ酪酸などでは様子が異なる。例えば、グルタミン酸は、2.1 ppm(3位)、2.43 ppm(4位)、3.75ppm(2位)近傍に化学シフトを持つ。この中で3位と4位間の化学シフト差0.3 ppmは3Tで40 Hzに相当し、6 Hz程度のJに対して約6倍である。これは強い結合と呼ばれ、1次近似の扱いでは不十分で、密度行列を用いて化学シフトとスピン結合を同等に扱う必要がある。この結果、複雑に分裂したピークとなるが、実際には磁場不均一性による重なりのためin vivoでは幅広ピークとして検出される。
 スピン結合を有するピークのみを検出するエディティング(編集)法では、90°パルスでの観測磁化生成後に印加する2種類のRFパルスを用いる。一つは、結合相手の1Hを反転させる180°パルスであり、印加、非印加の差スペクトル編集を行う。もう一つは90°パルスで、結合1H間で多量子遷移や分極移動を生成し、位相サイクルなどで差スペクトル編集を行う。GABA検出で良く用いられるMEGA-PRESSは、前者を利用した方法である。90°-180°-180°のPRESSと90°-90°-90°のSTEAMで得られるスペクトルの違いや、線形結合モデルでシーケンス、TEなどの条件に応じた基底スペクトルが必要なことは、これらの作用から理解することができる。
 この様にスピン結合は1Hスペクトルの理解や、1H MRS測定法にとって重要であり、この講演では、できるだけ式を用いず定性的に分り易く紹介したい。