[S3-2] 先天性小児神経疾患代謝疾患の診断、経過観察における1H-MRSの有用性
背景と目的:当センターでは2007年より神経疾患疑いや新生児の脳MRI検査においてMRSをルーチンとし、2008年よりはLC Modelによる定量解析も施行している。その中でMRSによってはじめて診断に至った症例や病勢評価にMRSが有用であった症例を多数経験している。本演題では小児の臨床MRI検査にMRSを追加することの意義について概説する。方法:使用機種はSiemens, Avanto 1.5TとVerio 3Tで、MRSはSingle voxel, PRESS法、TR/TE/NEX=5000/30/4-32を用い撮像時間は一カ所に付きシミングを合わせて約5分である。結果:2013年度末までに約2000例の定量解析を行った。臨床に有用であった代表例を次に挙げる。Crピークの欠損から診断に至ったCrトランスポーター欠損症は3例あり、うち2例ではMRIは正常で、1.3ppmに著明なピークを認め診断されたSojgren-Larsen症候群でもMRI異常を認めなかった。原因不明の脳症の新生児における0.9ppmの分枝アミノ酸ピークはメープルシロップ尿症を確診させた。乳児脳症例におけるLCModel分析からGABA高値の判明した症例では世界3症例目のGABAトランスアミナーゼ欠損症が確定し、小脳萎縮と基底核石灰化のある兄妹のCho、mIns低値例は葉酸トランスポーター欠損症と診断された。後者3疾患では治療によりMRS異常波型の消失などの変化が認められ、病勢評価にも有用であった。脳幹でのmIns高値から診断に結びついた早期の若年型Alexander病は神経症状でなく成長障害が主訴であった。様々なミトコンドリア病(各種Leigh脳症、MELASの卒中様発作、Leukoencephalopathy with brainstem and spinal cord involvement and lactate elevation)では、病態を反映した乳酸ピーク上昇の分布が観察できた。また、白質変性症、白質形成不全症(X連鎖性副腎白質ジストロフィー、異染性白質ジストロフィー、幼児型Alexander病、HABC、Vanishing white matter病、Pelizaeus Merzbacher 病とその関連疾患)では鑑別診断に病的代謝物変化が有用であった。結語:1H-MRSは先天性小児神経疾患・代謝疾患の診断および病勢・治療評価に有用で強力かつ非侵襲的な診断手法であり、緊急時も含めて行う意義は高い。