第21回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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基礎系

[S1-05] 認知神経リハビリテーションにおける課題と対話は客体化された身体の主体化に寄与する
ー 脳卒中片麻痺者を対象とした計量テキスト分析によるシングルケーススタディ ー

*上田 将吾1、高木 泰宏1、山中 真司2、加藤 祐一1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション、2. 結ノ歩訪問看護ステーション東山)

【はじめに】
 理学療法場面では理学療法士からの一方的な指示的言語が多く,患者の主体性を阻害する可能性がある(大島ら,2017).認知神経リハビリテーションを適用した単一症例の臨床場面における対話を分析した結果,操作対象であった客体としての身体が,感覚を受け取る主体としての身体に変容した可能性が示唆されたため報告する.

【方法】
 対象者は右被殻出血発症後9年が経過した60歳代男性である.Fugl-Mayer Assessment上肢運動機能が57点から60点に変化する10週間を対象期間とし,全9回の介入中の音声を録音,逐語録としてテキスト化した.逐語録を療法士と対象者の発言に分けた上で計量テキスト分析にて検討した.分析にはKH Coderを使用した.質的分析を含め,考察を加えた.分析結果は質的研究者3名と共に検討した.

【結果】
 文章中に同時に出現する語と語の関係(共起)を図示する共起ネットワークを作成した結果,療法士と対象者に共通した話題として<身体の動き><体性感覚><力の制御>が挙がった.一方,療法士は「肩とか肘の動き具合は分かりました?」のような体性感覚や運動を確認する発言が多いのに対し,対象者は「意識的に動かす」のように自身の身体を客体化して意識的に運動を行うといった発言が多いという,異なる特徴を認めた.また,語や共起がデータ中のどの位置に出現するかを検討するため,時系列上の出現位置との相関を検討した.両者とも「動く」「動き」といった漠然とした運動に関する語や共起は序盤で,「触る」「柔らかい」といった体性感覚に関する語や共起は中盤で,「伸ばす」「持つ」といった具体的な運動に関わる語や共起は終盤で相関を認めた.

【質的分析と考察】
 対象者は<身体の動き>に多く言及し,客体化した身体を意識的に制御しようとする意図が推察された.療法士は対象者に同調しつつ,課題の中で身体運動と体性感覚との関連に繰り返し言及した.対象者は終盤で「(力が)抜けると同時に(肘が)伸びる」のような,身体運動と体性感覚とを関連付けた記述をしている.対象者の意識的に操作する対象であった客体としての身体は,課題と対話を通し,体性感覚と結びついた主体としての身体に変容したと考える.

【倫理的配慮、説明と同意】
 ヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的,方法,不利益がないこと,プライバシーの保護について説明を行い,同意を得た.