Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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高次脳機能障害

[S5-02] 失語症の保続が軽減し,夫婦の会話に改善がみられた1症例
ー 「寝るか」「寝るか」から「寝るか」「寝るべ」の1人称の言語 ー

*宍戸 加奈美1、木村 絵梨2 (1. 函館稜北病院、2. 北海道こども発達研究センター)

【はじめに】
 発症から6年以上経過した重度運動性失語症例と認知神経リハビリテーションの失語症訓練を実施後、長年変化のなかった失語症の保続が軽減し、発語内行為に改善がみられた為、報告する。

【症例】
 X年に左被殻出血を発症した60代後半の男性。右上下肢に麻痺は残存したが、杖歩行にて移動自立。X+1年、通所リハビリ利用開始となった。重度運動性失語・失行・注意障害が残存し、特に発話・動作共に運動性保続が強くみられた。標準失語症検査(SLTA)の聴覚的理解は単語レベルから低下、視覚情報の理解は比較的良好。自発話は僅かで稀に単語発話あり。はい/いいえ(発話)や首振り/頷きの返答は保続が強く、信頼性に欠けた。

【病態解釈】
 保続について山鳥は「一旦賦活された神経過程が十分に抑制されないために生ずる現象」と述べている。(山鳥重 1987)本症例は保続の際に修正や抑制ができず、気づきもみられなかった。注意の分配性や転導性に低下はあったが、全般的な注意・連続性は高く、課題への意識も持続可能。解読可能なテーマとレーマを設定し、認知過程の注意を活性化することで保続を制御できれば、はい/いいえ・首振り/頷きの返答が再学習できるのではないかと仮説を立てた。

【訓練】
 X+3年後、1セット4枚の写真(絵カード)で構成されたカードを活用した解読訓練を実施(週1回20分、6か月)。言語発達レベルに準じたカードを選択、徐々に言語変数を変えて、保続を制御し言語機能の再学習を促した。当初は思考時間が短く、発話することに努力し保続が多かった。返答をはい/いいえから首振り/頷きに変更し継続すると、発語内行為に変化がみられ、思考時間が増加。同時に保続が減少した。

【結果・考察】
 失語症の保続を意識的に制御し、言語機能の再学習が可能となった。それにより、意識的な返答や自己修正、的確なジェスチャーや短い発話が増加。妻との寝る前の会話が「寝るか」「寝るか」から、発症前の「寝るか」「寝るべ」(北海道弁)に戻った。また妻からの依頼に「わかっています」と返答するなど文脈に沿った対話がみられた。SLTA に変化はなかったが、上記記述は発語行為・発語内行為が改善し、発語媒介行為として夫婦の会話が一部可能になったと推測。本症例にとって保続の制御は、一人称的記述を取り戻す一助となった可能性がある。

【説明と同意】
 症例・家族へ説明を行い、同意を得た。