Riabilitazione Neurocognitiva 2021

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整形外科疾患

[S7-07] 1ヶ月間,左手を腹部に縫いつけて過ごした症例
ー 維持できた“動く肩” ー

*大房 賢五1、中里 瑠美子1 (1. 東京女子医科大学東医療センター リハビリテーション部)

【はじめに】
 今回,1ヶ月間の左上肢固定の後,解除直後より疼痛なく肩関節全可動域を動かせた症例を経験したので考察と共に経過を報告する.

【症例紹介】
 症例は事故で左手に熱圧挫傷を呈した50代男性である.認知機能は正常で,左手損傷以外に問題は認めなかった.損傷は第Ⅱ-Ⅳ指基節骨骨折とその周囲挫滅による末梢神経損傷で,壊死を防ぐ為に有茎皮弁術を施行された.術式上,左手を左側腹部に形成したポケットに入れて縫いつけた為,肩関節外転/内旋-肘関節屈曲-前腕回内位で固定された.それゆえ随意的な動きは肩甲骨挙上/下制/外転/内転とそれに伴う各関節一部の動きに限られた.左手の存在感は感じ取れており,ポケット内で僅かに動かすことができた.

【病態解釈/治療方略】
 長期の不動による局所的な循環障害や廃用性の筋委縮,疼痛,拘縮と共に,学習性不使用をきたすリスクが高いと考えた.そこで知覚課題を通してイメージ想起を継続し,学習性不使用を起こすとされる脳の対応領域の変質を防ぐという方略を考えた.加えて訓練時間外にも能動的に上肢のイメージ想起を図る時間を創って貰い,対応領域活性化の頻度を高めることで受傷前の身体図式を維持できると考えた.

【経過】
 以上の治療について説明し,理解を得た.具体的な介入内容としては,肩に纏わるエピソードから野球や水泳での動きを対話を通して精緻化し,よりリアルな運動感や接触感のイメージ想起を図った.左手指には皮弁上から接触して関節部位の識別や素材質感の識別などを行った.自主練習では動かせる範囲での実運動とイメージ想起に取り組まれ,仕事場面での手の動きや知覚の想起を具体的に語ってくれた.1ヶ月後に皮弁連続部を切り離し,術後より肩関節全可動域を動かすことができた.

【考察】
 積極的な実運動や感覚入力は脳内の体部位再現の狭小化を防ぐ(森岡, 2016),実運動を表出できない場合は運動イメージ想起が有効である(内藤, 2018)と報告されている.本症例の様な状況下を経て受傷前の身体図式を維持できた要因は,実運動と等価である運動イメージ想起の継続が効果的であったと思われる.並びに教育的指導に対するご理解と症例自身の自律的な関わりも重要であったと思われ,症例との共同作業による成果で“動く肩”を維持できたと考える.左手は現在も治療中である.

【説明と同意】
 本発表に対し,症例には口頭にて説明し同意を得ている.