第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[CPR] 臨床実践報告②

2022年10月1日(土) 14:30 〜 16:00 第2会場 (ライブ配信)

座長:安田 真章(東京大学医科学研究所附属病院)

15:00 〜 15:30

[CPR-05] 計量テキスト分析の臨床応用の試み- 患者の言語から病態を解釈するために -

*上田 将吾1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション)

認知神経リハビリテーションの実践において,『患者と話す』ことは欠かせない.患者自身が経験している身体や世界を知り,その認知や病態の本質に迫ることが回復を促す上で不可欠なためである.よって臨床場面では,患者の記述した言語を分析・解釈しながら臨床を展開することが求められる.我々は患者の言語を正確に解釈し,適切な方向へ臨床を展開できているのだろうか.
 今回提示する症例は,右被殻出血発症後12年が経過した70歳代の男性である.訪問看護として療法士が週1回訪問している.左片麻痺の状態は,分離が進んでいるものの,筋緊張亢進が著しく,体性感覚も重度鈍麻の状態である.元来活動的な気質であったが,コロナ禍で外出機会が著しく減少し,蔓延防止等重点措置の期間には療法士の訪問も約2ヶ月間休止した.訪問再開時には下肢機能および歩行能力の低下が著しく,転倒リスクも高い状態であった.しかし,下肢の問題を指摘しても実感がなく,実感を促す方向に展開しても話を逸らしてしまうなど,症例と療法士との間で共通した課題を設定することに難渋した.
 症例の病態に迫るべく言語記述を分析するに際し,計量テキスト分析の臨床応用を試みた.計量テキスト分析とは,テキスト型データを計量的分析手法を用いて整理または分析する手法であり,一般的にはアンケートや新聞記事の分析等に用いられることが多い.分析の対象は訪問再開から10回の介入とした.対応分析の結果,全体を通して特徴な語として「見る」「自分」「来る」などが見出された.これらの語に着目して記述内容を質的に分析した結果,症例の認知における視覚の優位性,他者から自己へ向けられた視線への意識,自己の客観的な捉え方といった特徴が明らかとなった.分析後,介入方略を以上のような認知の特徴を踏まえた形に修正した.
 当日は介入方略を変更した後の経過も含めて報告する.本事例を通し,患者の言語から病態を解釈することの重要性,その方法や可能性について議論したい.