第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

クリニカル・ディスカッション

クリニカル・ディスカッション

[CD] クリニカルディスカッション③

2023年10月8日(日) 11:10 〜 12:10 第3会場 (B1F ギャラリー1)

座長:稲川 良(水戸メディカルカレッジ)

11:10 〜 11:40

[CD-05] 言語学習における動機づけと認知課題の検討- 自律的な学習方略の獲得を目指して -

*木川田 雅子1 (1. 東北医科薬科大学病院)

Zimmerman(1986)は,自己調整学習を「学習者が,メタ認知,動機づけ,行動において,自分自身の学習過程に能動的に関与していること」と定義している.失語症訓練では,課題と自己目標を同一化する外発的動機づけにメタ認知能力を活用することで,自律的な学習が促進されると考える.
 今回,失語症を呈した2例の言語学習経過を比較参照し,自己調整学習の観点から課題設定について検討した.
 症例1は,左側頭葉~頭頂葉皮質に梗塞巣を認めた60代,右利き,男性である.Y年発症時より感覚性失語を呈し,言語を介した意思疎通は困難であった.主訴は表出・文字言語に向けられたため,産生課題も施行したが,解読課題に重点を置き,言語情報処理過程の再学習を誘導した.Y+4年,評価上の変化は認めなかったが,簡単な対話が可能となり,語産生における「独自の産生方略」について記述が得られた.
 症例2は,Y年より喚語困難を自覚し,大脳基底核変性症と診断された70代,右利き,女性である.介入当初,ADLに問題はなく,対話にて失文法や音韻性錯語を認めたが,簡単な意思疎通は可能であった.Y+2年,認知機能・言語機能障害の進行により,何を聞いても「大丈夫」とのみ答えるようになった.Yes/No反応の確立を目的とした認知課題を施行したが,対話への汎化には至らなかった.
 症例1は,自己目標に対し,本課題で学習されたメタ認知能力を活性させることにより,自律的な学習方略が獲得されたと考える.一方,症例2は,進行する言語症状により負の経験が増え,学習意欲は更に低下した.症例にとって本課題は,動機づけとの同一化が不十分であったと考え,内発的動機づけを導入し,情意面や自己効力感に配慮した課題設定が必要であったと考える.
 以上より,自律的な学習方略の獲得には,学習動機の方向づけやメタ認知能力の活性をセラピストがどのように導くかが重要と考え,双方に必要な認知課題について議論する機会としたい.