第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

クリニカル・ディスカッション

クリニカル・ディスカッション

[CD] クリニカルディスカッション⑤

2023年10月8日(日) 13:10 〜 14:10 第2会場 (B2F 多目的スペース)

座長:江草 典政(島根大学医学部附属病院)

13:40 〜 14:10

[CD-10] 学習を促進するための患者とセラピストの関わりを再考する

*矢野 恵夢1 (1. 摂南総合病院)

病的状態からの学習を図るため,セラピストは患者の学習過程の解釈を図り,介入を試みる.Perfettiは「患者が優先的に学習しなければならない情報,その情報をどのレベルで展開させて相互に関連づけてゆくのか,あるいはそれらをどのように構成して行くのかなどについて,詳細な指示を与えなければならないのである」と述べている.
 一方で,リハビリテーションを「患者とセラピストの相互作用」と捉えるとセラピストが患者の生きる世界を推察するだけでなく,患者もまたセラピストが生きる世界を推察していると捉えることができる.患者の学習を促進させるためには,セラピストの問いや認知問題に対し求める解答を推論し,解答するという意味での相互作用ではなく,両者が双方に関わることによって生じる間や沈黙,コンテクストといった端的に言語化できない曖昧さを包括したプロセスの相互作用が重要であると考える.
 今回提示する症例は,右大腿骨転子部骨折術後に歩行の改善に難渋した70歳代の女性である.リハビリに協力的に取り組む一方で,歩行の改善を目的とした介入に対して「全然わからへん」と思考が止まる傾向があり,学習の促進が困難であった.そこで,患者がセラピストの意図を推論するために冒頭から歩行に関係する介入であると症例に提示した.また,メタファーを用いることで互いの経験の言語に含まれる曖昧さを共有し,双方向からの相互作用を試みた.結果,介入と歩行の関連性を見出すことが可能となり,自ら行為を内省し,自発的に歩行を改変するなど志向性の変化を認め歩行が改善した.
 本発表では,行為の改善に至るまでの患者とセラピストの関わりや歩行の内省,介入が行為へと応用可能となった過程,つまり学習を促進すると考えられる患者とセラピストの関わりに焦点をあてた臨床推論を提示し,人間の運動学習ストラテジーについて皆様と議論していく機会としたい.