第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

指定演題

口述発表

[DP] 指定演題②

2023年10月8日(日) 10:15 〜 11:00 第3会場 (B1F ギャラリー1)

座長:玉木 義規(甲南病院)

10:30 〜 10:45

[DP-05] 患者の言語をどのように分析するか

*上田 将吾1 (1. 結ノ歩訪問看護ステーション)

 我々セラピストは,何の目的で患者の言語を分析するのか。ペルフェッティはその目的を『患者の経験についての情報を得る』こととした。我々は患者が何をどのように経験しているのかを知るために,患者が記述する言語を媒介として利用していると言える。レイコフは『言語は認知に基づいている』とし,また『個人が同一の経験領域を,異なる,そして矛盾する方法で理解することが有り得る』とした。この見解は,患者の言語を分析することで患者の経験を知ろうとする我々の目論見の根拠となり得る。
 分析対象とする言語とは何であろうか。ソシュールは言語体系を『それぞれがどれかの事物に対応している用語の目録』とする考え方を批判し,言語が含む音韻も概念も『差異しか存在しない』ものとした。患者の言語を分析する際,記述された言語を用語目録的な,辞書に書かれた意味でのみ解釈したのでは,その言語に込められた意味や意図,更にはその言語を生み出した背景に迫ることはできない。ある言語記述は絶対的な意味を持つのではなく,その言語記述でないものとの差異として記述されると言える。
 では,我々は患者の経験を知るために,言語をどのように分析するのか。この問いに答えるため,当日は実際の臨床場面を提示し検討する。ウィトゲンシュタインは『言語について語る場合,私は日々の言語について語らなければならない』と述べたが,この着想はガーフィンケルらによるエスノメソドロジーやサックスらによる会話分析に引き継がれ,現在はエスノメソドロジー・会話分析(EMCA)として実践されている。EMCAでは,会話に参加する成員が相手の言葉をどのように解釈したのか,成員の発言や行為を手掛かりとして分析を行う。EMCAを用いて臨床場面を分析することで,我々セラピストが患者の言語をどのように分析しているのかを記述し提示することが可能となる。患者の言語をどのように分析するか,どのように分析すべきなのかを議論する機会としたい。