[P2-03] 片手動作と両手動作の違いを情報構築の観点から再考する
~腕神経叢麻痺を呈した一症例~
【はじめに】
認知神経リハビリテーションでは,行為間比較に照らして行為を観察する中で両手動作に着目するようになった(Rizzello,2018).今回,対称的に物を把持する場合において患側から健側の順にリーチさせると適切に把持できないが,両手同時あるいは健側から患側の順にリーチさせると違和感なく物を把持することができる症例を経験したので以下に報告する.
【症例】
左肩関節脱臼,左上腕骨大結節骨折より腕神経叢麻痺を呈した80歳代前半の女性である.受傷2ヵ月後の自動ROMは肩関節屈曲・外転75°であり手指の完全な握り込みは困難であった.MMTは肩関節屈曲4,外転3+,手指屈曲4,握力は右12.0kgf,左2.5kgfであった.環指・小指を中心にNRS3程度の痺れと軽微な感覚不明瞭感を認めた.健側から患側へ運動イメージの転換は困難であったが,その他に顕著な認知的変質は認めなかった.
【特徴的な現象】
テーブル上から器を持ち上げない条件下でリーチングから把持までの観察を行った.患側リーチ時は僅かに肩甲帯の代償動作が伴い,器を把持したときに「浮いている感じ」と記述した.一方,両手同時にリーチさせた時は肩甲帯の代償動作なく把持することが可能であり「左右同じ感じ」と記述した.また,健側で器を支えながら患側を把持させた時は違和感の訴えが無かったが,患側で器を支えながら健側を把持させると違和感を訴えた.
【考察】
Zernitz(2018)は,両手を介して行為の情報空間を構築すると述べている.両手同時あるいは健側から患側の順に把持させた時は,健側のリアルタイムの運動感覚情報をもとに患側リーチ時の運動プログラムが変化し,器を把持したときの手掌・手指の接触情報が増え,器全体の触覚を知覚しやすくなったと考える.一方,患側から健側の順に把持させた時は,健側と患側との予期情報が異なり良好な運動感覚が得られなかったと推測する.このように,健側の運動感覚情報をもとに両手を介した訓練を行うことで,これまでの行為経験が反映されやすくなると考える.対称的な両手動作は,運動イメージの転換が困難である場合や回復途上にある症例の導入に有効だと考える.両手動作から片手動作への移行方法や疾患,回復時期を考慮した考え方については今後の課題としたい.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に関して説明し書面で同意を得た.
認知神経リハビリテーションでは,行為間比較に照らして行為を観察する中で両手動作に着目するようになった(Rizzello,2018).今回,対称的に物を把持する場合において患側から健側の順にリーチさせると適切に把持できないが,両手同時あるいは健側から患側の順にリーチさせると違和感なく物を把持することができる症例を経験したので以下に報告する.
【症例】
左肩関節脱臼,左上腕骨大結節骨折より腕神経叢麻痺を呈した80歳代前半の女性である.受傷2ヵ月後の自動ROMは肩関節屈曲・外転75°であり手指の完全な握り込みは困難であった.MMTは肩関節屈曲4,外転3+,手指屈曲4,握力は右12.0kgf,左2.5kgfであった.環指・小指を中心にNRS3程度の痺れと軽微な感覚不明瞭感を認めた.健側から患側へ運動イメージの転換は困難であったが,その他に顕著な認知的変質は認めなかった.
【特徴的な現象】
テーブル上から器を持ち上げない条件下でリーチングから把持までの観察を行った.患側リーチ時は僅かに肩甲帯の代償動作が伴い,器を把持したときに「浮いている感じ」と記述した.一方,両手同時にリーチさせた時は肩甲帯の代償動作なく把持することが可能であり「左右同じ感じ」と記述した.また,健側で器を支えながら患側を把持させた時は違和感の訴えが無かったが,患側で器を支えながら健側を把持させると違和感を訴えた.
【考察】
Zernitz(2018)は,両手を介して行為の情報空間を構築すると述べている.両手同時あるいは健側から患側の順に把持させた時は,健側のリアルタイムの運動感覚情報をもとに患側リーチ時の運動プログラムが変化し,器を把持したときの手掌・手指の接触情報が増え,器全体の触覚を知覚しやすくなったと考える.一方,患側から健側の順に把持させた時は,健側と患側との予期情報が異なり良好な運動感覚が得られなかったと推測する.このように,健側の運動感覚情報をもとに両手を介した訓練を行うことで,これまでの行為経験が反映されやすくなると考える.対称的な両手動作は,運動イメージの転換が困難である場合や回復途上にある症例の導入に有効だと考える.両手動作から片手動作への移行方法や疾患,回復時期を考慮した考え方については今後の課題としたい.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に関して説明し書面で同意を得た.