第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-05] 7年前に運動失調を呈した症例のパソコン操作の獲得を目指して

*豊田 拓磨1、國友 晃1,2、松村 智宏1,2、佐藤 誠1、沖田 かおる1、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 愛宕病院 脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)

【はじめに】
 7年前より運動失調を呈した症例は,パソコン(PC)のキーボードに患側である左手を構えると手指が振るえた.その際に,手指に力を入れて振戦を止める戦略を使うが更に振戦が増大した.この症例に固有感覚を基にした認知運動課題を実施した結果,PC操作を獲得できたため以下に報告する.

【症例紹介】
 症例は錐体斜台部髄膜種で7年前に手術を施行した60歳台の男性である.認知機能や右上肢の運動機能に問題なかった.左上肢の身体機能はFugl Meyer Assesment(FMA)の上肢項目が62/66で,振戦と測定異常に減点を認めた.STEFが54点であった.感覚は表在に問題なく,深部は単指を他動運動すると同定できるが,複数の指は認識困難であり,筋の伸張感は認識できなかった.失調評価として,SARAで14/40,Comprehensive Coordination Scale(CCS)が39/69で,上肢項目が14/33であった.PC操作はキーボードに左手を接地すると手指の振戦を認め,症例が手指全体に力を入れて振戦を止めようとしたが振戦は増大した.机上に前腕回内位で各指の伸展を要求すると,手指の振戦を認めるが分離運動ができた.その時に症例が「どのように力を入れているか分からない」と発言した.

【病態解釈および介入方法】
 症例は手指を細分化して認識できず,手指運動時に力量調整ができなかった.また,振戦の出現時に力を入れて制御した.この誤った方法が振戦を増大させたと解釈した.認知運動課題は机上に前腕回内位で手指を他動運動し筋が伸縮する感覚を認識した.その認識を基に手指の屈伸運動を予測し,実際の運動と比較照合した.その後に,巧緻動作練習やPC操作練習を2週間行った.

【結果】
 介入2週後には,PCのキーボードに左手を接地した時の振戦は消失した.タイピング時に振戦を認めたが,症例が手指を「ふわっと動かす」ようにすることで,手指の振戦を軽減できた.

【考察】
 症例は長期間に手指の振戦を誤った方法で制御していた.固有感覚を基に認知運動課題を行った結果,手指運動時の振戦を制御できた.それにより,PC操作の複雑なタイピング操作を獲得できたと考える.

【倫理的配慮(説明と同意)】
 個人情報保護の観点から匿名性に配慮を行い,対象者から発表に関して書面にて説明し同意を得た.