第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-10] 行為の際に屈曲共同運動が出現する患者に外部物体への注意から行為の改善を目指して
〜茶碗を持つ行為の獲得に向けた試み〜

*吉田 将臣1、濵田 裕幸2、後藤 圭介3 (1. 一般社団法人 巨樹の会 松戸リハビリテーション病院、2. 東京大学 工学系研究科、3. 国際医療福祉大学 成田保健医療学部)

【はじめに】
 今回,茶碗を持つ行為の際に屈曲共同運動が出現する患者に外部物体に注意を要求する接触課題を行い行為の改善が図れたため報告する.

【症例紹介】
 70代女性,右前頭葉・側頭葉の梗塞により左片麻痺を呈し,発症から3年経過し当院外来リハビリに通院している患者である.BrsはⅣ-Ⅳ-Ⅵ,表在・深部感覚は中等度鈍麻,食事での麻痺側使用頻度・動作の質はAOU2点・QOM2点であり主に非麻痺側を使用して食事をしている.日常生活にて左上肢の参加は多いが屈曲共同運動が出現し,「左手全体が硬くなる」との内省が多く聞かれた.本症例の目標として「左手で茶碗を持ち汁物を飲みたい」と希望があった.茶碗を持つ行為の観察場面にて左手指・手関節の屈曲共同運動が出現し,視覚情報にて修正するが茶碗が滑ってしまっていた.評価的訓練にて,硬度の違うスポンジの弁別課題と1~6枚の板を把持し板の枚数を問う課題を実施したが,道具を握り込むため識別が困難であった.しかし,表面素材を使用した課題では接触情報の認識は比較的可能であった.

【病態解釈】
 手指の圧情報・空間情報の構築が困難であるため,感覚を統合しての運動制御ができず屈曲共同運動を抑制する事が困難であると考えた.また,行為の際は筋感覚情報がフィードバックされ,左手の硬さに注意が向き行為を遂行するため物品を握り込んでしまうという誤学習が生じていると考えた.

【訓練と結果】
 本症例は,接触情報の認識は比較的可能であるため,導入として外部の変化に対し接触情報の構築に対応する訓練を考案した.母指と他指にて絨毯を把持し絨毯をセラピストが動かし,絨毯の動いた方向を問う課題を実施した.結果,圧・空間情報の認識に変化はなかったが食事でのAOUが3点に向上し屈曲共同運動の抑制を図ることができ,茶碗を把持することが可能となった.

【考察】
 外部情報に注意を向けた訓練により,行為の改善を示した.運動学習には道具などの外部情報に注意を向けることが有効と述べられている(Gabriele Wulf,2012).本症例も身体外部の情報に注意を向けることで接触情報に基づく,行為中の物体との相互作用が可能となり行為の改善が得られたと考える. 今回の課題の考案によって接触情報の構築のための外部物体を用いた課題は,有効なツールになる可能性が示された.

【説明と同意】
 症例には口頭及び書面にて説明し,同意を得た.