第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P3] 神経系(下肢・体幹)

[P3-06] 口腔内の水の水平性を参照とした課題が自覚の乏しい頚部側屈と視空間認知の改善に影響したパーキンソン病患者の一症例

*青木 良磨1、三上 恭平1、加茂 力1,2 (1. 医療法人社団神天会 登戸内科・脳神経クリニック リハビリテーション科、2. 医療法人社団神天会 登戸内科・脳神経クリニック 脳神経内科)

【はじめに】
 頚部側屈の自覚が乏しいパーキンソン病(PD)患者に実施した口腔内の水の水平性を手掛かりにした課題が,頸部側屈のみではなく視空間認知の改善にも寄与した.以下に報告する.

【症例紹介】
 70歳代男性,罹病期間10年のPD患者である.既往歴にクモ膜下出血による軽度左片麻痺と,左同名半盲がある.Hoehn & Yahr scale Stage 4で,統一PD評価尺度 PartⅢは44点,L-dopa総換算量は704.5mg/日である.Barthel Indexは65点だが,Mini Mental State Examination28点と認知機能は良好であった.本症例は頚部右側屈位で,患者による修正後の頚部側屈角度(修正角度)は24.7度だった.主訴は「飲水時に右側から水がこぼれてしまう」であり,患者は「手すりなどを基準にまっすぐ座れている」と姿勢の自覚が乏しかった.同時期に実施した視空間認知の評価である立方体透視図模写では,書き直しの線が多く,依光らの基準に基づく定量評価では2/10点だった.

【病態解釈】
 本症例は視覚を基準に垂直位を認識し,姿勢を修正しているが,視空間認知の異常のため,適切な修正が出来ないと推察された.一方,飲水時に右口角から水がこぼれやすいことは自覚しており,口腔内の水の水平性を基準とした情報構築により,頸部右側屈位の自覚と自覚に基づく修正が可能と考えた.

【治療と経過】
 口腔内の水の水平性から頸部位置を推測する課題を閉眼で実施した.課題を通し頚部右側屈位である事を自覚し,修正角度は4.5度まで改善した.頸部側屈の改善と伴に,立方体透視図模写も書き直しの線が減少し,定量評価では5/10点に改善した.患者の記述も「どの線を描いているかわかりやすくなった」と変化した.

【考察】
 口腔内前方の触覚情報は,三叉神経を介して脳幹の三叉神経核に直接投射され,前庭神経核と相互のシナプス結合を有している(Buisseret-Delmas C 1999).PDの体幹側屈や視空間認知障害にも前庭機能が影響する(Tang H 2021,Bigelow RT 2015).本症例に実施した課題は前庭機能を介した共通するメカニズムにより,頸部側屈位のみでなく,視空間認知の改善にも作用したと推察される.

【倫理的配慮】
 発表について説明し,書面で同意を得た.