第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P3] 神経系(下肢・体幹)

[P3-15] 右視床梗塞を発症した認知症高齢者への重心変化に準拠した認知運動課題

*沖田 学1,2、竹内 友哉2、野口 奈菜2、川口 裕聖2 (1. 愛宕病院 脳神経センター ニューロリハビリテーション部門、2. 愛宕病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
 健忘症患者は知覚運動学習できるが,学習効率が悪い(Milner, 1968).そのため,認知症症例には認知神経リハビリテーションの適応がないと誤認されることがある.今回,バランス障害を呈した認知症高齢者に対して重心変化を制御する認知運動課題を契機に改善した症例を報告する.

【症例紹介】
 症例は右視床梗塞を発症しアルツハイマー型認知症を呈していた90歳台女性である.発症初期の身体機能は足Tap10秒間を両側25回で運動麻痺を認めず,観察から左側下肢の軽度感覚障害が推測された.発症後5週ではMMSE 7点で即時想起できた.開眼閉脚立位は1分以上できたが閉眼だと31.06秒で後方へ倒れ,バランス評価(FBS)42点であった.
 足底感覚の左右差は「変わりないです」と返答し,足底識別では差異が大きい素材は分かるが,似た物は間違えた(2/5誤答).前足部に素材を置いた状態で立位重心動揺を計測すると安定傾向を示した(減少率:単位軌跡長19.4%,Y軸26.87%,X軸4.94%).その後は動揺減少を維持できなかった.

【病態解釈】
 重心変化に対する足部の制御能力が低下し,左後方へ転倒すると考えた.さらに,認知機能の低下とともに視覚依存と体性感覚鈍麻により重心変化を即時に知覚できないため重心制御の学習が困難だと考えた.治療戦略はこれらに加え,持久力の向上を考えた.

【認知運動課題と経過】
 自主ストレッチなどの運動に加え足底への課題を実施した.認知運動課題の必須要素を,①識別対象の明確化,②視覚から体性感覚への感覚の重みづけ,③立位課題時間の確保とした.前足部で絨毯を踏んでいるか否か識別を開眼と閉眼の立位で実施した.さらに,立位で左右前後に動かした身体を正中に修正する課題も行った.その後にバランス練習を実施した.
 経過とともに前足部で素材を探索して返答できるようになった.課題開始3週後ではFBS 48点,8週後ではFBS 53点,T杖歩行自立し,MMSE16点で遅延再生はできなかった.

【考察】
 本症例は即時想起できたが記憶保持できないため,重心変化の識別を明確にした.そして,身体の修正に伴う足圧変化の制御へ段階づけた.足底から知覚した情報を基に身体意識が変化する(淺間, 2017)ことで重心制御を学習したと推察した.

【倫理的配慮】
 対象者と家人に説明し同意を得た.また,個人情報の匿名性に留意した.