[P3-20] リーチが可能と判断する距離の過大評価が改善した事で転倒頻度が減少したパーキンソン病患者の一症例報告
【はじめに】
リーチが可能と判断する距離(見積距離)の過大評価があり,手すりに手が届かずに転倒を繰り返すパーキンソン病(PD)患者に対し,リーチ動作時の姿勢の認識課題を実施した.その結果,姿勢の認識改善とともに過大評価の改善と転倒頻度の減少を認めた.以下に報告する.
【症例情報】
80歳代女性,罹病期間3年のPD患者.Hoehn&Yahr重症度分類はⅢで,統一PD評価尺度PartⅢは15点,L-ドパ換算用量は759.85㎎/日だった.認知機能は良好であり,Barthel Indexは90点で屋内杖歩行レベルだった.立位姿勢は骨盤が後方に変位しており,体幹前屈位であった.患者からは「爪先が浮いている」など足部についての訴えが多かった.転倒頻度は1週間に1,2回で,手すりへリーチをした時に届かずに転倒することが多かった.患者はこの状況を「手が届かなくて空振る」と訴えた.ステップ位でのリーチ動作時の患者自身の姿勢認識は,足部に対して骨盤が後方に位置している状況を,足部上に骨盤が位置していると認識した.ステップ位での前方重心移動を伴うリーチ可能距離の実測は60㎝であるのに対し,見積距離が75㎝と過大評価を認めた.
【病態解釈】
本症例は,リーチ動作時に骨盤が後方へ引けている事に気づいておらず,足部上に骨盤が位置していると認識していた.そのためリーチ可能距離を過大評価し,転倒に繋がっていると推察された.
【治療と経過】患者の注意が向きやすい足底圧を基準に,骨盤の位置を認識することで,ステップ時の姿勢の認識を改善できると考えた.ステップ側の足部に対し,①骨盤前方位,②骨盤直上位,③骨盤後方位の3枚の静止画を用いて,足底圧の変化を手掛かりにしながら自身の骨盤の位置を静止画から選択する課題を実施した.課題後,「いつも腰が引けていた」と骨盤が後方に変位していることを認識でき,見積距離は65㎝と実測の64㎝と同様になった.転倒頻度もひと月に1,2回に減少した.
【考察】
本症例はリーチ可能距離の実測と見積距離との乖離が改善し,転倒頻度が減少した.PD患者では,見積距離を過大評価しやすく,このことが転倒に影響することが示唆されている.見積距離の過大評価には,リーチ動作時の姿勢の認識が一要因となっている可能性がある.
【倫理的配慮】
発表に関して説明し,書面で同意を得た.
リーチが可能と判断する距離(見積距離)の過大評価があり,手すりに手が届かずに転倒を繰り返すパーキンソン病(PD)患者に対し,リーチ動作時の姿勢の認識課題を実施した.その結果,姿勢の認識改善とともに過大評価の改善と転倒頻度の減少を認めた.以下に報告する.
【症例情報】
80歳代女性,罹病期間3年のPD患者.Hoehn&Yahr重症度分類はⅢで,統一PD評価尺度PartⅢは15点,L-ドパ換算用量は759.85㎎/日だった.認知機能は良好であり,Barthel Indexは90点で屋内杖歩行レベルだった.立位姿勢は骨盤が後方に変位しており,体幹前屈位であった.患者からは「爪先が浮いている」など足部についての訴えが多かった.転倒頻度は1週間に1,2回で,手すりへリーチをした時に届かずに転倒することが多かった.患者はこの状況を「手が届かなくて空振る」と訴えた.ステップ位でのリーチ動作時の患者自身の姿勢認識は,足部に対して骨盤が後方に位置している状況を,足部上に骨盤が位置していると認識した.ステップ位での前方重心移動を伴うリーチ可能距離の実測は60㎝であるのに対し,見積距離が75㎝と過大評価を認めた.
【病態解釈】
本症例は,リーチ動作時に骨盤が後方へ引けている事に気づいておらず,足部上に骨盤が位置していると認識していた.そのためリーチ可能距離を過大評価し,転倒に繋がっていると推察された.
【治療と経過】患者の注意が向きやすい足底圧を基準に,骨盤の位置を認識することで,ステップ時の姿勢の認識を改善できると考えた.ステップ側の足部に対し,①骨盤前方位,②骨盤直上位,③骨盤後方位の3枚の静止画を用いて,足底圧の変化を手掛かりにしながら自身の骨盤の位置を静止画から選択する課題を実施した.課題後,「いつも腰が引けていた」と骨盤が後方に変位していることを認識でき,見積距離は65㎝と実測の64㎝と同様になった.転倒頻度もひと月に1,2回に減少した.
【考察】
本症例はリーチ可能距離の実測と見積距離との乖離が改善し,転倒頻度が減少した.PD患者では,見積距離を過大評価しやすく,このことが転倒に影響することが示唆されている.見積距離の過大評価には,リーチ動作時の姿勢の認識が一要因となっている可能性がある.
【倫理的配慮】
発表に関して説明し,書面で同意を得た.