第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P4] 高次脳機能障害

[P4-05] 「左右」という言語の運用が困難になった左半側空間無視症例

*大木 美穂1、稲川 良2 (1. 介護老人保健施設ルーエしもつま、2. 水戸メディカルカレッジ)

【はじめに】
 今回,方向概念は保たれているが行為の中での「左右」という言語に誤りがみられた左半側空間無視(以下,USN)症例を経験した.空間情報の統合と「左右」の正確な言語化を目的に行為場面写真(以下,絵カード)を用いた訓練を行い,変化がみられたため経過を報告する.

【症例紹介】
 入所中に多発性の右脳梗塞を発症した80歳代女性.左片麻痺,全般性注意障害を認め,車椅子座位では左側へ姿勢が傾いていた.傾きの方向を必ず「右」と記述し,左側の身体部位へ注意を向け続けることが困難であった.左右の概念は保たれていた.BIT行動性無視検査は通常検査94/146点であった.模写や描画では左部分の見落としがあり,対象依存性の左USNを認めた.ADL場面での左USNは目立っていなかった.HDS-R21点であった.絵カードを用い左右の言語化を観察した結果,自己中心座標は全て正答したが,絵カード内の人物視点はいずれも逆に誤った.

【病態解釈】
 物体中心座標における空間認識,物体中心座標と身体中心座標の空間情報の統合に問題をきたし,視点取得が難しくなった結果として,「左右」という言語の正確な運用が困難になっていると仮説を立てた.

【介入と結果】
 テーブルの右または左を拭く行為の絵カードを用い,絵カード内の人物と自己を比較した視覚―体性感覚情報の変換課題(解読・産生),視覚―言語情報の変換課題(解読・産生)を実施した.当初はいずれも左右反対に解読し,視覚―言語情報では左の誤りを指摘しても気づきに乏しかった.徐々に視覚―体性感覚情報の変換が可能になり,絵カードの向きを45度回転させると納得感のある反応がみられた.視覚―言語情報の変換課題は安定しなかったものの,左右を意識する言語記述がみられるようになった.さらに,座位姿勢の傾きを「左」と回答できることが増加した.

【考察】
 絵カードを用いた視覚―言語情報の変換課題では十分な改善はみられなかったものの,視覚―体性感覚情報の変換課題の成績向上に伴い,座位姿勢の傾きの方向についての応答に正確性が向上した.本症例の「左右」の言語の誤りは,左半球損傷で生じる左右障害とは異なる機序によるものと考えられた.
 
【倫理的配慮】
 発表に対し症例に説明を行い,同意を得た.