第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P5] 小児

[P5-03] 心因性のストレスの影響が大きい子どもへの認知神経リハビリテーションを通した関わり

*塙 杉子1,2、山本 琴3、板谷 亜里香3、太田 卓司4、吉川 公代3 (1. 名古屋女子大学、2. 東北大学大学院医学系研究科 肢体不自由学分野、3. NPO法人あるいていこう 児童発達支援センター すてっぷあいる、4. 医療法人秋田病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
 学校での出来事,自分の気持ちは話さない普通級・高学年の男児に対して計6回の認知神経リハビリテーションを含む作業療法を実施した.自分の身体を認知するという過程から徐々にセラピストと認知問題を共に取り組み,最終的には身体を用いた活動の上達を積極的にセラピストに披露してくれるようになった.また,母親も一緒に活動を楽しみ,子どものできないことではなく「できる」ことに着目するように意識が変化した.

【症例紹介】
 3歳児健診時に色盲,小学2年生の頃から睡眠障害,4年生時のいじめをきっかけに重度の難聴と診断された高学年・普通級の男児(難聴はストレス軽減と共に数ヶ月後に消失).WISC-Ⅳの結果,全体的な知的水準はIQ87, 自閉症スペクトラム症(AQ:34点>25,JSI-R:固有受容覚・味覚はYellow,それ以外の感覚はRed),注意欠如・多動症,発達性協調運動障害の診断がある.

【病態解釈と介入】
 初回評価時に本児は「何も困っていない」,「体育は嫌い」,「算数や国語も嫌い」と話し,一方母親は,粗大運動も巧緻運動も苦手,スキップができない,ペットボトルの蓋が開けられないなど主に運動面や生活上で困り事がみられた.解釈としては,本児と母親の心理状態のギャップ,本児の身体イメージや身体図式に関わる認知問題が明らかになった.姿勢・バランス評価,筋の視診・触診,実際の活動場面を評価し,行為を各要素に分解しながら治療計画を立て介入を行った.

【結果と考察】
 3点の介入効果が認められた.1点目はスキップ動作の獲得であった.これは,体性感覚を用い上下肢別々に集中的に行うことで約15分で獲得に繋がった.本児がリズムを認知する上での「心的作業」が必要であり,中枢神経系が外界認識のために行う組織化能力と関連していると考えられた.2点目は,体幹機能とバランス能力の向上である.徐々に上肢でバランスをとりながら,対称性を保つよう意識し,体幹の左右の傾きも修正できるようになった.3点目は本児の身体活動に対する認知の変化と,それに応じた母親の本児に対する声掛けや気持ちの変化である.徐々に本児はブリッジや片脚立位など積極的にセラピストに披露するようになり,自信もついてきた様子であり,母親も笑顔で見守るようになった.

【倫理的配慮】
 本報告に対し口頭と書面で説明し,同意を得ている.