日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム12 片頭痛の病態生理研究の新展開 (日本頭痛学会)

2020年11月27日(金) 13:15 〜 15:30 第4会場 (1F C-1)

座長:目崎 高広(榊原白鳳病院 脳神経内科)、竹島 多賀夫(富永病院脳神経内科・頭痛センター)

[CSP12-2] 片頭痛の遺伝子研究が明らかにしたこと

古和久典 (NHO松江医療センター 脳神経内科)

頭痛の遺伝子研究は,1996年に前兆のある片頭痛の特殊型である家族性片麻痺性片頭痛(familial hemiplegic migraine: FHM)の一部の家系で,原因遺伝子が報告されたことが端緒となり,その後の成果が蓄積されてきた.現在までにFHM1(P/Q-type Ca2+ channel α1 subunit),FHM2(Na-K ATPase α2 subunit),FHM3(Brain type I Na+ channelαsubunit)が同定された.いずれも細胞膜のチャネル機能に関与し,これらの遺伝子変異によってグルタミン酸(興奮性アミノ酸)の神経伝達や脳神経細胞の易興奮性の増加,皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)の閾値低下などがもたらされることが,トランスジェニックマウスなどによる研究成果から明らかとなっている.その病態が波及して,硬膜動脈や脳軟膜動脈に分布している三叉神経終末より,サブスタンスPやCGRPなどの炎症性神経伝達物質が放出されて,局所神経原性(無菌性)炎症を来すとともに,脳幹・大脳へ痛みとして伝達されるという,1993年に提唱された病態仮説である三叉神経血管説を支持するものとなっている.その後に報告されたSLC4A4やSLC1A3の各遺伝子変異もチャネル異常(チャネロパチー)の範疇で考えられている.いわゆる一般の片頭痛における3つFHM遺伝子変異などは,いまだに見出されていないが,FHMのみでなく一般の片頭痛の病態における同様の病態機序が示唆されている.
大規模なゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study: GWAS)が進められ,年々複数の染色体座位や遺伝子が報告されている.2016年に報告されたGWASでは,片頭痛59,674例,対照316,078例による検討で,38遺伝子座にある44個の一塩基多型(SNP)が報告されているが,個々の遺伝因子の寄与率は高いとは言えない.今までにGWASで関連が示されたSNPの機能を考慮すると,ニューロンや血管関連,疼痛,イオンチャネル,イオン恒常性,メタロプロテイナーゼなどに分類されるが,それぞれの詳細な病態機序は未だ不明である.
ゲノム解析技術は目覚ましい進歩を遂げており,近年,頭痛や痛みと関連したepigenetics解析や,次世代シーケンシング(next-generation sequencing)技術を用いた解析が進められている.新たなブレークスルーによる病態解明や治療の発展が期待される.