日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム13 重症筋無力症診療ガイドライン update (日本神経学会)

2020年11月27日(金) 13:15 〜 14:45 第5会場 (1F C-2)

座長:今井 富裕(札幌医科大学 保健医療学部)、園生 雅弘(帝京大学 脳神経内科)

[CSP13-1] 重症筋無力症の診断

今井富裕 (札幌医科大学 保健医療学部)

現行の重症筋無力症(myasthenia gravis: MG)診断基準案2013が作成されてから数年以上が経過している.診断率を上げることを基本方針として作成された診断基準案2013は,病原性自己抗体をB項目として検査項目から独立させ,反復刺激試験などの神経筋接合部障害を検出する検査をC項目として記載した.Cの神経筋接合部障害を判定する項目としては,眼瞼の易疲労性試験陽性,アイスパック試験陽性,塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験陽性,反復刺激試験陽性,単線維筋電図でジッターの増大の5項目が採用されている.この改訂によって,病原性自己抗体が陽性であればMGの診断は比較的容易になったが,抗AChR抗体,抗MuSK抗体ともに陰性のMG(いわゆるdouble-seronegative: DS-MG)では,MGと診断するために神経筋接合部障害の証明が必須となった.アイスパック試験では,これまで3-5分間の眼球・眼瞼の冷却が報告されていたが,最近は2分間の冷却直後に判定することが多い.眼瞼下垂が改善すれば陽性であり,MG以外の疾患では陽性になりにくい.施行前後で眼裂を定規で測り,写真を撮ると判定しやすくなる.安静や加温の効果と比較すると,感度が上がる.反復刺激試験は通常,鼻筋,僧帽筋,手内在筋などにおいて行うが,被検筋に肘筋を加えると感度が上がるという報告がある.反復刺激試験における減衰率は,第1刺激における複合筋活動電位(compound muscle action potential: CMAP)の振幅に対する,後続するCMAPのうちの最小振幅の比率(%)で表現する.通常,刺激頻度3Hzで10回の電気刺激を行い,減衰率が10%以上になった場合を異常とする.ただし,顔面筋を被検筋とした場合,減衰率を7-8%にすると特異度を下げることなく,感度を上げることができるという報告がある.単線維筋電図(single fiber electromyogram: SFEMG)は通常,前頭筋,眼輪筋,総指伸筋において行う.神経筋接合部障害を調べる検査の中で最も高感度であるが,陽性だった場合に他疾患との鑑別を要することがある.しかしながら,感度の高い単線維筋電図の普及が不十分である現状では,神経筋接合部障害が証明できないためにMGと診断されず適切な治療を受けられないDS-MGの症例が存在していると考えられる.また,DS-MGの中に,単線維筋電図等で神経筋接合部障害が証明された先天性MG等が紛れ込む可能性がある.これらの問題に対応して,新しい診断基準案では支持的診断所見として血液浄化療法の有効性が盛り込まれる可能性がある.本講演では,MGの診断基準の変遷を概説し,電気生理学的検査の重要性について言及する.